生物機能光学専攻 准教授
山本 麻希

 インタビュー日:平成23年6月27日


 

 

鳥獣被害対策に向かう理由と工学との連携

NTIC:先生の研究について、お聞かせ下さい。もともと先生は、生物ではないですか。生物の先生がご自分の研究をしていたら、鳥獣の駆除というところに、テーマが出てきて、こちらの方に研究の内容をシフトして、動いていらっしゃるということですか?

山本:そうですね。駆除というより、本当は「動物と共存するための技術」なのですけれど、昔は、山とかに、人がたくさんいたので、労働力がありました。労働力でなんとか対策を講じていたという部分があります。今は、中山間地といわれているところに人がいません。いても80代くらいの、おじいちゃん、おばあちゃんです。小さな労働力しかないのです。でも、動物はどんどん力をつけてきています。例えば、新潟県はクマが大量にいる県です。昨年も目撃が1200件、11件の人身被害と、四百何十頭もクマを殺しています。殺したいわけではなくて、人間が安全に里で暮らすために、クマには山に帰ってもらいたいのです。本当は、山をきちんと刈って、人間と動物が暮らすところの間に、きちんと境界線をひかないといけない。昔は、薪炭林として、木を切って使っていた、その労働力もありましたし、山の木が石油の代わりに使われていた。ところが、いろいろな技術的な開発によって、木が使われなくなり、人がいなくなりました。そういう社会的な背景によって動物が下りてきているのです。最近は自然と共存しないといけなくなってきているので、皆殺しではなくて、境界線を作って分ける、人間がある程度力を使って森を管理して、農作物をきちんと守る。動物には、本来の森に帰ってもらう。そのためには、農業被害がずっとあった状態では餌がありますから、動物は下りてくる。そこに防除させる。あるいは、動物は慣れてくるとどんどん里山を使うようになるので、悪い個体はとって脅かして、出来るだけ山に帰ってもらう。こういったことを少しの労働力で出来るように、そのための技術を研究しているのです。

NTIC:もともと先生の研究されてきた動物の生態をうまく応用してきているということですか?

山本:鳥獣被害の問題ってアナログなのです。対策にほとんど機械を持ってきていないのです。唯一、電気柵(図1)というのがあって、それが少し機械っぽい。あとは、どれだけ原始的なのかと思ってしまいます。どうしてこんな事になっているのかというと、明治から昭和にかけて、人間が動物をとりまくっていた大絶滅期というのがありました。そのときからしばらくはいなかったのです。動物が戻ってきたというのは、そもそも平成になってからです。しかも、農学部と工学部というのは、どこの大学でも仲が悪いのです。最近、産学連携で、ちょっとコラボしているところもありますけれど、往々にしてこんな機械を本気で作ってくれるというコラボレーションがなかなかない。そんな中で、この大学は工学部の単科大学に、私みたいにイレギュラー教員をよくぞ雇ってくれたと思うのです。でも、逆に、機械や電気の先生とは非常に近いので、コラボレーションしていただいています。被害対策には、どうしても工学の力が必要だと思っていますので、心強いのです。

 

イノシシの被害対策

 

NTIC:鳥獣ということで、まず、イノシシの対策について、聞かせていただけますか?

山本:例えば、ちょうどそうですね。イノシシに踏まれた稲ですね。こんな感じ(図2)で、入って食べるだけではなくて、体の寄生虫をおとすために「ぬた場」といって、こういう風にグチャグチャにするのですけれど、これが入ったところは、JA(全国農業協同組合連合会)さんは、絶対商品にしてくれません。おしっこをかけたりして、臭くなるのですね。臭いコシヒカリが出たら、それはもうコシヒカリブランドに傷がつきますから、ちょっとでもイノシシが入ったら、「もう絶対、あげてくれるなよ」と。まだ使えるのに。でも、入ったところは、ほぼ断然くらいだめになってしまう。それが、イノシシの怖いところで、捕獲しないといけなくなります。ところがイノシシは夏と冬で雪を避けて、どうも移動してたらしいのですね。そこで、テレメトリーをして、冬、どこで捕獲をかけたらいいのか、夏はどこに罠をかけたらいいのか、動物の行動を知らなかったら捕まえられないので、そういう場面で、うちの技術がお役にたつかと思っています。
  捕まえる方法として電気柵は、イノシシには、とても効果があります。

 

サルの対策について

NTIC:サルはどうですか?

山本:サルは電気柵を張ってもダメです。というのは、サルは本当に賢いです。例えば、今、共同研究をしている新発田市では、サルが22群、1000頭以上いるのです。各群れ一つ一つに全部テレメトリーをつけていますが、年々、群れが増えているのです。さぼっていたわけではなくて、新発田は、毎年200頭以上とっています。すごい数をとっているのに、被害金額が減っていないうえに、群れが増えている。

NTIC:どうしてですか?

山本:サルというのは、雌の母系社会なんです。なので、賢くて強い雌がゆるく群れを統率しています。それなのに、やたらめったらとると、そのより強い雌を打ち殺してしまうことになってしまうのです。若い雌は誰につき従っていいかわらなくて、群れが割れます。サルは群れごとに行動半径が決まっているので、50頭1群れだけでもこれだけ、それが、10、20、20と割れたら、もっと広がってしまうのです。群れが3つに割れれば、被害地は広がる。個体数は増えていないのに、被害地が広がる。後には、餌がいいので、また個体が増えて、結局50頭の群れになってしまって、どんどん被害が広がってしまう。

NTIC:では、どうすればいいのですか?

山本:雌にはトランスミッターをつけて放して雄と子供だけとっておけば、絶対、群れは割れない、そういうやり方があります。でも、一生こんなことをやっていても埒があきません。サルは、行動を追うのが基本です。サルは、一日1~2キロメートルしか移動しないので、寝ている場所をつきとめれば、翌朝、どこの集落にくるかわかります。皆さんがロケット花火を持っていれば、くる前に追い払えます。実は、もっといいシステムがあります。例えば、木曽村というところで見せてもらったのですけれど、ラジオ発信機がついているサルがいると、近接警戒システムといって、集落の脇に受信機が入った塔を建てておいて、200メートル以内にサルがきたら、回転灯がくるくる回って、お猿のかごやのメロディーが鳴る。これがあれば、里山のおじいちゃんたちは、音楽が鳴った瞬間に出ていけば、サルは集落には入れなくなる。これが、40万円くらいなのですが、すごく売れています。電気柵は、あくまでも、精神策なのです。これが、サルと人間の境界線なんだよと、サルに教える意味での柵です。で、入ってきたときに、追いかけていくというのを常に繰り返して、できるだけ山の方に追いやる。後は、テレメトリーを使って、追い上げなければいけないのですね。
  どうするかというと、GIS解析といって、力丸先生とかがご専門なんですが、私たちも結構やっている技術として、地図上の地理用図、こういうのを、衛星から出したりしてデータ解析しておくのです。植生図から出して、サルが本来住むべきところというのを、事前に地図上からデータ解析をしておくのですね。本来、サルがここにいて欲しいというところを、人間が考えて、そこに向かって、サルを追い上げていくのです。
  ワンマン犬というのですけれど、人と犬がペアになって、グループを3つ作ります。この人たちを、バックアップ隊、追い上げ隊、進路コントロール隊といったかんじに、3班に分けるのです。で、本来サルがいるべき場所に追い上げる、これは、昔のクマのマタギの追い上げ方と同じなのだそうです。

 

鳥の対策について

NTIC:他にはありますか?

山本:山にいる動物だけでなく、町にいる鳥についても色々と研究をしています。まずは、相手の動きがわかることです。生態観察です。それを、「先端工学技術を生かした鳥獣被害対策委員会」という研究交流会として、広井工機とか、イートラストとかにだいぶ頑張ってもらっています。どうしてこんな事をしないといけないかと言うと、基本、動物というのは、行動を調査しないといけないのです。動きがわからないとそれに対する対策は出来ないということなので。
  今、鳥の自動モニタリングシステム(図3)ということも、電気系の山崎先生としています。これは鳥獣害でなく、生態学の機械ということで研究しています。ラジオメトリーといって電波発信機をつけて、そいつがどこにいるかを、固定アンテナでみつけようと、機械をかなり大ががりに作ったのですけれど、なかなかうまくいかないのです。やっぱり今、総務省がオープンにした周波数帯というのが、140メガヘルツというアマチュア無線くらいの帯域なので、これで定位(ロケーション)するのは、難しいだろうと思っています。もうすこし、研究を基礎からやってみようと、GPSとそれから電波通信をそれぞれのプロとコラボしてみようということで、今、クマ、サルを中心にGPSの方とデータ転送システムというのを、今年は別口でちょっと立ち上げたりもしています。
  今、お話したのは、つかまえてできることで、やっぱり画像で確認というのはすごく考えていて、これは電気系の岩橋先生がメンバーに入っていて、あと機械系の吉田さんにもお手伝いいただきながら、シルエットで鳥を確認しようとしています(図4)。これは、カラスで一応特許になりました。でも、あくまでも電線の上にいるカラスだからなるので、こちらも、やはり少し難しいです。

NTIC:動きがわかれば、次は追い払いですよね?どんな追い払い方法がありますか?

山本:追い払いで、昨年の学長裁量で予算をいただいたのが、レーザー、スピーカー(図5)、あともう一つが、氷銃。一個では多分慣れてしまうので、組み合わせてだと思っています。ですが、それぞれに、まだ問題がありまして、超音波を利用することで、鋭い指向性を持たせることができるパラメトリックスピーカーというのがありまして、この技術を活かして、周りには公害(騒音)にはならずにある一箇所だけに音を当てていく、鳥がいるところだけに、ものすごい轟音を出してやろうと思っているのです。ですが、なかなか制御がうまくいってなくて、この春に実験をやったら氾濫音がすごくて、出力と制御と、ヒトにアテナイための安全、この三つを何とかうまく制御しないと、まだ、ちょっとこれは難しい。試行錯誤しつつ、開発中です。
  レーザーの方(図6)も、機械系の柳先生の研究室の学生に色々やってもらっています。開発秘話が一杯あります。どこにカラスがいるかというのは、岩橋先生がかなり本格的にやってくれたので、そこにいるというのは判るのですけれど、作ったレーザーを、駅にもっていって、当てようとしたら、「これ以上、首があがりません」となったのです。
そうなんです。学生は前にいるものに当てようと作っていたのですけれど、カラスは、電線の上にいてですね、45度以上なので、これはダメですと、一回差し戻しになったのです(笑)。
  今は、工業用レーザーにして作っていただいているのですけれど、どうなるか。これはそんなに強い刺激ではありません。ただ、ずっと当てていないとダメなんですね。一瞬やっても、すぐ戻ってきてしまうので、24時間、ずっと当てられるようなものにしたいということで、長岡駅さんからも、長岡市さんからもご相談いただいたので、作りたいことはやまやまなんですけれど、やってみると意外と難しくて、まだなかなか「これ」というものになっていないので、学生に頑張るように期待しているところです。

 

NTIC:色々な系の先生方と、色々な話があって、色々な技術・研究が生まれているのですね。とても素晴らしいことですね。

山本:そうですね。そういうヒトとヒトつながりで、お互いの専門を少し知りつつ、何かあったときには、声がかけられるような距離というのは、すごくありがたいなと思います

 

鳥獣被害対策の商品化(防草シート)

NTIC:そんなお話の中、何か実用化、商品化しつつあるものってあるのですか?紹介してもらってもいいですか?

山本:これはマスクですが、抗菌剤になっています。フィルターとして、インフルエンザとかのウィルスを吸着します。これの中の抗菌剤の代わりにある金属を応用できないかなと考えています。これをどこに使うのかといいますと、電気柵にです。電気柵は鳥獣被害対策によく効くのです。ですけれど、問題があります。地面におくので、当然、草が生えてきますが、草がかかった瞬間に漏電してしまう。安いものではないので、漏電して壊れてしまうと困りますから、草を刈らないといけない。だけど、労働力はどんどん高齢化してきている。仕方がないので、電圧を高くして、草を焼き切るのですが、電圧を高くすると機械の消耗が激しい。一難去ってまた一難といった様相でして、難しいのです。結局、導電性のある防草シートがあるといいなとなるのです。防草シートというのは、プラスチックなので、アースに対して足がぴったりつくから、電気が通るのですよね。これがプラスチックのシートがあると当然抵抗になるので、電圧がおちて、動物に入られやすいとなります。もっとばんばん電気を通す防草シートが欲しいのです。

NTIC:そこで、この金属となったわけですね?

山本:長岡市の産業振興課の人に相談したら、「港屋さんにこんなのがあるよ」ということで。ただ、やっぱり、単価が高いのですね、だから、どういう形で商品になるかわからないのですけれど、頑張っています。北海道の電気柵メーカーで、日本では2大メーカーといわれているところなんですけれど、この社長さんとコラボレイトしてもらって、素材としては、すごくいいものだから、何か新しい商品が生み出せるのではないかと期待しています。例えば、防草シート自体に電気を流すということができるかもしれない、つまり、踏めば電気が通るという電気柵になるかもしれないとか、今、いろいろな可能性があります。
   それと、今、国がしている「野生鳥獣の農林水産被害防止対策特措法」という、112,8億円を付けた、こういう資材をですね、今、国が、すごい勢いで金を作って張らしています。けれども、今、防草シート代というのは、込ではないのですね。それは、付属品だから自分が買えと言われています。そういうところに、漏電性のある防草シートも、込でいれてもられば一番いい。それについては交渉次第だと思っていますので、それについても頑張っていきたいと思っています。

 

使用上の法的規制の問題

山本:今お話ししたような研究が進めば、被害対策も進むと思うのですが。

NTIC:何か問題があるのですか?

山本:すべて法に触れてしまうように思えるのです。レーザー出力はもう法に触れていて、氷銃は銃刀法に多分触れているのですね。で、スピーカーも騒音公害に。

NTIC:そうですか。それは難しい問題になりますね?

山本:実際の現場として国の法規に触れるような出力ではないと野生鳥獣を追い払えないのですけれど、もし、いいものが出来たときに、国にこれだけ効くからどういう条件だったら使わせてくれるのか、という風にもっていかなければならない。そこまで面倒くさい問題なんだと思うのです。だから大変だなと。

 

鳥獣被害対策の将来

NTIC:県内でいいますと、鳥獣対策のマンパワーというのは、どうですか?

山本:他県では、農業総合試験場とかありますよね?そういうところに、生態のプロが、鳥獣被害担当官としています。イノシシ対策員、シカ対策員、サル対策員が全部いて、それが行政に指導しています。そういう対策のシステムが、他県にはあります。うちの県は残念ながらゼロです。最近、私は新潟ワイルドライフリサーチという団体を立ち上げました。自分で本当はNPOを作りたかったのですけれど、資金がなくてNPOにならないので、まず任意団体を作って実績をだして、県に、うちのデータを認めさせて、使ってもらおうと思っています。

NTIC:では、その新潟ワイルドリサーチが、うまくいって、研究が進んで、新潟県の被害が少しでも減るといいなと思います。何か、NTICで協力できることがありましたら、何なりとお申しつけいただければと思います。本日は、お話ありがとうございました。