機械創造工学専攻 教授
武田 雅敏

 
インタビュー日:平成23年4月28日

 

フレキシブル熱電変換素子

NTIC:先生の研究についてお聞かせください

武田:私はもともと高専時代は電気科だったんですけれど、途中で 材料を勉強したいなと思い、大学では材料学を専攻しました。 ですので基本的には材料が専門です。今は機械系にいますが、 機械系では熱をやっている先生もいるので自分がこれまで学ん だ電気や材料の知識を組み合わせた研究をしたいなと思い、熱 を電気に変える材料を研究しています。

NTIC:技術シーズ集に載っていた、柔らかく曲がる素子(図1) ですね

武田:そうです。この材料の片側の温度を高くして反対側を低くし て温度差をつけてあげると起電力が発生します。どうやったら より多く電気が起きるかということを、材料の特性の観点から 研究しています。
  どうやったら発電量が上がるかというのには一応理論はある のですが、そんなに簡単じゃなくてですね。そんなに簡単だっ たらとっくに開発が終わっていてわれわれの研究することがな くなっちゃうんですが、いろいろ計算したり、実際に作って試 して性能を測ってみたりして、このくらい上がったからもう少 しここをいじろうか、というように材料の研究をしています。

NTIC:こんなに薄いのにすごいですね。触らせていただいてもい いですか?

武田:はい。どの向きに曲げていただいてもいいですよ。

NTIC:フレキシブル基板に似ていますね

武田:これはまさにパソコンとかに使われている材料、フレキシブ ル基板です。ポリイミドという材料でそこに銅を張り付けてあ ります。その銅を薬品で溶かしてストライプ状にしているので すが、この2 枚の縞々のフィルムの間に細かくパターンが作っ てあり、その細かいパターンが発電する材料なんです。

NTIC:熱電変換素子と言われているものの中身を研究されている と考えればいいですね

武田:そうですね。

NTIC:熱電変換素子が熱を電気に変えるということを簡単にご説明いた だけますか?

武田:電気のもとは電子なんですね。たぶん中学校で習ったと思うのです が、材料の中にはマイナスの電子がいっぱい詰まっているんですけれ ども、片側を温めると、温まった方の電子がより活発に動くようにな るんですね。より活発に動くようになると、温度の低いほうに動いて いくものが出てくるので、それが電気として外に取り出せるんです。 ふつうは右も左もどちらも電子は同じくらいずついるので外から見て もこっちがプラスだとかマイナスとかはないのですが、ある種の材料 では片側を温めてやるとそこにいた電子がより活発に動いて、温度の 低いほうに偏っていったりするんですね。電子が多くなった方がマイ ナス、反対側がプラスになって、乾電池のようにプラスとマイナスが 発生するので電線で外につなげると電気として取り出せる。というこ とです。その偏り具合が大きくなるような材料を探したり設計したり しています。

NTIC:逆に反対側を無理やり冷やしてやっても電気が取り出せますか?

武田:はい。相対的ですのでこっちを冷やしてやってあんまり活発に動か なくなってくると温度が高いほうから寄ってくる電子が多くなります から、電気として取り出せます。

NTIC:どのような熱での発電をお考えですか?

武田:こういった形で発電しようとすると、一つの応用としては自動車か ら出ている排熱ですとか、あとは工場でも温排水が出ますよね。今は 捨てられている熱が多いのでそこから少しでも電気が取り出せれば、 省エネにもなりますよね。
  私の夢は、この材料を携帯電話にくっつけてちょっと電池が減って きたら体温で発電して充電できればいいなあと思っています。

NTIC:体温でも電気が発生するのですか?

武田:基本的に温度差を大きくすればそれだけ多く電気が出ます。温度差 が少なければ電圧は小さくなりますが、ちょっとでも温度差があれば 発電はします。こういう研究をしているのは当然私だけではなく、世 界中でやっています。何年か前にはセイコーとシチズンが腕時計の中 にこういう熱電素子を組み込んで体温で発電して時計を動かすという ものを作って実際に売っていました。それだと1 度くらいの温度差が あれば時計を動かすだけの電力は作れたそうです。ただちょっと時計 が大きくなってしまうのと技術的にもまだ難しかったのか、1 個30 万 円くらいしたりして、今は売っていないです。

NTIC:夢とおっしゃっているということは可能性があると思ってそれを研究の素材にされているのですよね

武田:そうですね。実際にこの素子ではないのですが、他にも体温を使って発電をして短距離の通信をするという、そういったことを実証しているところもありますのでまったく不可能な話ではないと思っています。最近では、電子機器の消費電力が少なくなってきていますので、より高性能な材料を使ってより高性能な素子を作って、組み合わせてやることでいわゆる自然界にある熱エネルギーを使ってバッテリーとか充電とかを必要としないようなデバイスが将来できるのではないかと。そのための電源としての技術を考えています。

NTIC:先ほど工場などの排熱を利用して電気に変えましょうとおっしゃっていましたが、その時に使うようなある程度大きな電力を求めるような材料と、今おっしゃっているような微小な熱の変化で微小な電気エネルギーを得るような素子はかなり性質は変わりますか?

武田:そうですね。まず一つは使う温度域で違ってきますね。室温や体温くらいの温度域ですごく性能のいい材料もあれば、その低い温度域ではあまり性能は良くないけれども400度や500度とかもっと高い温度で性能がいいものもあるので、それぞれの用途に応じて材料を使い分けていく必要があると思います。それと工場の排熱のように大規模になってくると、高価な希少元素を使ってしまうとコストが高くつくという問題も出てきます。あとは特性の問題とか大量に作りやすいかとか。そういった観点もあるので大規模用途となってくるとかなり使える元素や材料も限られてくると思います。でも、小さい分野であれば少しくらいコストが高くても十分ペイできればそういった選択肢もあると思いますね。ただ単に溶かして固めてできるものもあれば、非常に精密な半導体プロセスみたいなのを使って原子を一層ずつ積んですごく性能のいいものを作るという研究もあります。一層ずつ積んでいったものを大量に工場に張り巡らせるというのは現実的ではないですが、ただ溶かして固めたものよりも2倍性能が良ければ、コストが高くても小さなデバイスに組み込むのであればもしかしたら使えるかもしれないですし、そういった意味でいろんな用途でモノは変わってくると思いますね。

NTIC:今のお話からですと、より小さくてよりコンパクトなものを実用に向けて思案されているということですね,

武田:当然いくつか研究テーマを持っていますので、なかなか一概にどれとかは言い難いですが、そのうちの一つで、材料として今やっているものとしては400度前後の温度域ですね。400度前後の温度域の排熱は、他の発電方法などのライバルが多いのでなかなか難しいところはあるんですけれど。
  たとえば、一つのターゲットとして自動車や工場の排熱の400度前後の温度域ですと、わりと毒性が少ない材料でよさそうなものもある ので、材料研究の一つとしています。あとは、なかなか材料だけだと 実用性というのは見えてこないので、そこで図1 のようなフレキシブ ル熱電変換素子ですね。デバイスとしての新しい発電素子というのも やっていまして、これはあくまでも新しいタイプの素子の研究です。 この素子はどちらかというと200 度以下くらいの低温の排熱をターゲット にしてやっています。というのは、いろんな産業分野から出てくる熱 の分布をみると200 度以下のいわゆる低温排熱がエネルギー量として 非常に多いんですね。それくらいの低温度となるとその熱でお湯を沸 かして蒸気でタービンを回すというのは難しくなってきますので、こ の低温排熱を利用した発電技術はかなり限られてくるんです。その一 つとして熱電変換っていう技術があるのでそういったところに応用で きるような素子ということで今これを提案しています。

NTIC:ちなみに、これまでにどちらかの企業さんと連携をして実用化に 向けた研究をしているケースもありますか?

武田:はい。あります。

NTIC:ということは、我々が先生の研究をPRしようとしても、話をし てはいけない部分もたくさんありますね

武田:そうですね。最近企業と一緒にやっている研究の多くは、図1 の素 子ですね。ただ、これ全部をどこかとやっているわけではなく、ある 会社さんはこの中のある部分、ある会社さんはこの中のある部分とい うような形で進めていることが多いですね。

NTIC:逆に先生の今の研究状況でこういう企業とお付き合いをしたい、 業種でもいいのですが、そういったところはありますか?

武田:発電した後にそれをどうするかという部分の企業さんですね。とい うのは、この素子は温度差によって発電するのですが、温度差が2 倍 になったら電圧は2 倍になるんです。ですので、熱源の排熱の温度が 変動すると出てくる電圧が変動するんですね。しかも残念なことにな かなか大きい電力が取れないのでどうしても蓄電していかなければな らないのですが、そういう時に電圧が変動するのをうまく調整しつつ 蓄電していくようなシステムをセットにして考えていかないと、どこ にどう使えるのかが提案しにくいというところがあります。

NTIC:ということは、そういった蓄電に興味があってそれを追求しよう としているような企業とタイアップできたら良いということですね

武田:今のところそうです。発電しても電力調整をするのにどんな回路で もいいわけではなく、発電した電力を最も効率的に取り出せる条件が あるんですね。
  たとえば、電流をあまり取り出さなければ電圧は高いのですが、それだと電圧と電流の掛け算で電力が決まるので電力としてはあまり大きくない。逆に電流をどんどん流せばいいのかというと、今度は電圧が低くなってしまうので電力として取り出せる量は少ないんですね。そこで、最大電力を取り出せるポイントがあって、負荷をうまく調整してやらないといけないので、そういったことも含めて発電した後の後工程を考えていかなければなりません。

NTIC:素子そのものが完成したバージョンになった時に、素子を開発するのではなくてそれを利用したいという企業さんと連携したいということですね

武田:そうですね。ユーザーとしてどういったところだったら使えそうか調査をしたことはあるのですが、なかなかうまくフィットするところが見つからなくて困っています。

NTIC:どちらかというと、より出口の部分ですね

武田:想定する対象が決まると、どれくらいの温度や熱量が必要になるかですとか、実際に温度差をつけることになるので冷却も必要ですので、どういった冷却ができそうだとかですね。ある程度計算でどれくらい電力が出るか計算できますし、場合によってはアプリケーションに適したデバイスの設計ができるようになるので、ある程度用途を絞ったほうがいいとは思っています。

NTIC:ちなみに先生がそういう実験に使う簡易的な装置とかをお作りになることもあるわけですよね

武田:はい。自分でこういうものの特性を測る時に市販の装置は当然ありませんので、自分たちで作ります。幸い今は機械系にいるので学生がある程度機械工作ができるので、学生に図面を引かせてそれで実際に自分たちで作って組んだりしています。

NTIC:武田研究室のHPに載っていた武田研独自の装置「よしお君」っていうのは・・・?

武田:そういう装置を作ってそれが代々使われるようになると、装置の名前がないので、作った学生の名前がついているんです。何年も前なんですが、吉尾くんって苗字の子がいてそれでよしお号っていうんです。他にも大矢っていう学生が作るとおおや号とか。よしお号で測定したなんて論文には書けないので、特別に製作した装置で測定しましたなんて書いてます(笑)。

NTIC:それはいいですね。学生にとっても自分が作ったものがいろんな形で名前まで残っているのは励みになりますね

武田:そうですね。別の研究の時に企業の方と一緒にやっていて、その企業でも同じ測定がしたいので、吉尾くんが作ったよしお号を写真にとってコピーみたいなものを作ってもいいですか?と言われたことがあったんですね。ちゃんと会社に頼んで作っていたら、その会社に「この部分のこの材料は何ですか?」って聞かれたんです。私も忘れていたので学生に聞いたら「そこは要らなくなったボールペンの芯ですよ。」って(笑)。細さを保持しつつ熱的に絶縁したいので、学生はいろいろ考えて要らなくなったボールペンの芯の部分をちょきんと切って通していたらしくてですね。「う~ん、なにでやりましょうか」って会社の方を悩ませちゃいました(笑)。そういうところは天才的ですよね。そういう意味ではこの大学はものづくりの好きな学生が多いのでこういう課題を与えると結構好きでこちらが思っていた以上のものを作っちゃったりします。計測用のプログラムも全部自前で作っているのですが、今まで30分かかった測定を30秒で終わらせちゃったりして、結構いいのができたりするんですよね。そういうのを一つ卒業研究としてやりつつ、うまくできて使えるようだったらずっと代々使っていくようにしています。そうすると学生の教育にもすごくいいので。

NTIC:楽しそうですし、楽しみながらできそうですね

武田:うまくいかなくて苦しんでいることも多いですけれどね(笑)

NTIC:でも自分でそれを作ったことで、フィードバックできますからね。ただの机の上のことだけじゃないから、そういう工夫とかが社会に出てからも生きますよね

武田:やっぱり自分で作って、実際に標準になるサンプルを測って正しい数値が出てくるのを確認したり、そういうのをやらせるとわりにちゃんと勉強してくれますので、教育的には良いんじゃないかと思っています。

透明な熱発電素子

NTIC:基本的には熱電変換素子のデバイスというところに、今現在の研究は集中されているのですね。もっと広く考えるとこんなことやあんなこともするよ、という一例はありますか?

武田:もちろんこの素子は一つのテーマとしてやっています。今は基本的にはエネルギー変換材料でということで、多くはこの熱電変換なんですが、熱電変換とは少し違う原理の発電の材料とかそういったことも少しやっていますし、あとはもうすぐできるのですが熱電変換の一つの応用で透明な熱発電素子というのをやっています。

NTIC:具体的な内容をお聞かせいただけますか?

武田:詳しくお話しするわけにはいかないのですが、フレキシブル熱電変換素子の考え方を応用すれば実現できると考えています。プロトタイプはある程度できていて、実際に太陽にかざして電圧が出たと学生が言っていました。私がこの目で見たわけではないのでまだ未確認情報なのですが。一応計算上では出力が見込めそうだという結果が出ています。

NTIC:本当に透明なんですか?

武田:完全な透明というのは今のところ無理で、ちょっとスモークっぽくはなると思います。

NTIC:極端に言えば窓ガラス全体が発電素子になって、普通に光も入ってくるし、電気も取れるということですよね

武田:そうですね。これは熱電変換の応用なんですけれども、フレキシブル熱電変換素子のような平面タイプの素子を提案しているので、その一つの応用として、透明なデバイス、要はガラスの窓にもっと付加価値をつけるものができるといいなあと。

NTIC:コスト的にはどうですか?

武田:う~ん。どのくらいのコストになるのか、今のところわかりません。コストが高くなったときに受け入れられるくらいの発電性能なのかまだ分からないです。これからの課題ですね。

 

冷却デバイス

 

武田:あとは、発電ではなく、ご存知だと思うんですがこういった熱電変換素子というのは実際もう存在しているんですね。ふつうはセラミックスの板にブロック状に切った材料がはさまれていて厚さが数ミリあって堅い素子なのですが、それは一般的には発電には使っていなくて冷却に使われています。温度差を与えてやると発電するのとは逆で、電気によって片側が冷えるんですね。、

NTIC:いわゆるペルチェ素子ですね

武田:そうです。ホームセンターに小さい冷蔵庫がありますが、ああいうところに使われています。どれだけ冷やすかにもよるのですが、割と大きい電流が必要になるので、まだまだいわゆる普通の冷蔵庫に比べると効率が悪いらしいので、一般には使われていないのですが、もっと高性能な冷却素子ができればだんだん冷蔵庫とかエアコンにも使われていく可能性はあると思いますね。私のやっている素子がそこまでいくとはまだ思えないのですが・・・(笑)。
  そういった、新しいタイプの冷却デバイスや冷却素子なんかも作っていて、それもうまくいきそうだったらいろんなところに出していきたいと考えています。

NTIC:全体の流れとしては熱にかかわって電気が出てきて、あるいは電気を入れたら冷えるとか熱が出るという一連の流れで共通しているわけですね

武田:そうですね。その中に使う材料をベースにして研究しています。もちろん基礎研究も当然していますが、それだけだと食べていけません (笑)。

NTIC:特許とかも結構たくさん書かれるんですか?

武田:いえ、あまり書かないです。でも、これ(図1)はおかげさまで特許が取れました。他の弁理士さんに見てもらったときに、よくこんなので取れましたねって驚かれましたが(笑)。すごく大雑把なざっくりした内容で出したのですが、何のクレームもつかずに申請が通ったので、これはラッキーだったのかなと思っています。もちろん、私から見て基盤特許になりそうなものは積極的に特許申請を考えています。