基盤共通教育部 教授

松原 浩


 

 

プレゼンと外部資金獲得

 

NTIC:先生の研究テーマをお話お願いします。

松原:私はもともと、めっきや腐食といった電気化学が専門なんです。めっきのなかでも、最近は、ナノダイヤモンド(世界で一番小さいダイヤモンド)をめっき膜の中に複合化する(めっき金属に中にダイヤモンドを分散させる)ということをメインテーマにしています。

NTIC:その研究は、県内の皆さんには知られているのですか?

松原:はい、このテーマに対して、色々なシーズプレゼンテーションをしています。昨年の7月に、新潟県の工業技術総合研究所からのお声がけで企業の方を対象に講演しました。先々週も燕三条の地場産業振興センターで講演を頼まれて、ナノダイヤモンドの複合めっきの話をしました。それは、3週間に分かれて行われる表面処理基礎講座という企画でした。あまりディスカッションをする機会がなかったので、リアクションはわからなかったのですけれど、そういった形で、シーズを使ってもらおうということで、これまでにもあちこちにプレゼンをしてまわって動いています。

NTIC:そういった、公共的な所が主ですか?

松原:いえ、個別の会社にもうかがっています。例えば、県内では魚沼の印刷機会社や、胎内市の会社、そして県外にも数社出かけています。また、こちらに聞きにめる会社もときどきあります。

NTIC:それで何か実を結んだことはありますか?

松原:新潟県工業技術総合研究所の方からお声がけをいただいて、JSTの「ニーズ即応型」の外部資金をいただきました。工業技術総合研究所と、私と、日本メッキ工業の3か所で、共同研究をするということで、基礎研究を少し実用化に近づけるためのスケールアップの研究をしています。また22年度から3か年ででの経産省のサポーティング・インダストリー(戦略的基盤技術高度化支援事業)にも採択されました。これは、総計1億円の大きな助成です。これには、ニーズ即応型のメンバーとして、私と工業技術総合研究所、日本メッキ工業、そして新たに、長岡の小西鍍金を加え、またアドバイザー企業として、自動車のピストンリングのリケンと、携帯電話のヒンジを扱っておられるストロベリー・コーポレーションにも加わっていただいています。中小企業を相手に産業を育成するという趣旨から、小西鍍金に中心になっていただき、プロジェクトリーダーは私がやらせてもらっています。そんな形でこのナノダイヤモンドの複合めっき膜というのも、あちこちから興味を持っていただいているという状況です。

NTIC:今回のプロジェクトの以前に、県内、県外でもいいのですが、それなりの連携を組んだ例というのも、たくさんあったのですか?

松原:いや、そんなにありませんでした。文科省の科研費や企業からの寄附金でずっと研究してきました。

NTIC:地元の企業さんと連動するという意味では、工業技術総合研究所のシーズプレゼンが、かなり大きなきっかえになったということですね?

松原:そうですね。先ほどの例以前に実は3年ほど前の1月だったと思うのですが、やはり、工業技術総合研究所から依頼されて講演を行いました。そのときも多くの県内企業に参加していただいています。工業技術総合研究所の目に留まったということが、一番大きなきっかけだと思います、工業技術総合研究所の方々、そこから紹介していただいた企業、そしてこれまでお付き合いのあった会社の方々など、皆さんが集まってきて、良いアイディアを教えていただいています。ありがたい話だと感謝しています。

 

ダイヤモンド複合めっきの優位性

NTIC:めっきにナノダイヤモンドを使うと良いと思われる点を教えて下さい。

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真
図1 ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真

 

松原:まず、ダイヤモンドは硬いので、その硬いものを金属と一緒にすれば金属も硬くなるというのは、想像されると思います。ただ、少しは硬くなるのですけれども、粒子がµからナノメートルのオーダーになると少し話が違ってきます。ナノダイヤモンドというのは、1次粒子(細かくしていったときに、最後に出てくる粒子)の直径が5ナノメートルの世界で一番細かなダイヤモンドです(図1)。そこまで細かくなってしまうと、必ずしも硬いものを入れたからといって硬くなるだけとは限らないのです。では、他にどんなことがというと、表面の摩擦係数が減るという現象が報告されています。それは、油を使わずに潤滑性が必要な機械部品の表面のめっきにいいのではないか・・・と、ここにひとつの出口がチラチラ見えるということになります。

NTIC:それは素晴らしいですね。どのくらいダイヤモンドが入るのですか?

松原:わずかに見られる先行研究では、めっきでは1%~2%しか膜の中に入らないというところで、「ナノダイヤモンドではめっきできないもの」とあきらめられていました。そもそもナノダイヤモンド自体が、簡単に手に入るものではなかったこともあって。

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真

NTIC:含有率1~2%で摩擦係数が減るというのがわかったのですか?

松原:1%や2%だと、そういう特性も現れるべくもなくて…。なぜこういう特性が確認されたかというと、粉末冶金(粉を混ぜて圧縮して金属の板にする方法)でなのです。ダイヤモンドの粉と金属の粉を任意の割合で混ぜて固めれば、任意の割合で混ざった物質ができます。
 金属はアルミニウムですけれど、そうしてかなり多量にナノダイヤモンドを含んでいる材料を使ったところ、摩擦係数が10の-3乗くらいだったとの報告があります。(重さ1キログラムのものが、1グラムの力で動く)。まるで氷の上のような状況です。あるいはローラースケートのようない転がり摩擦のような状況です。それが油を塗らないで(潤滑剤を塗らないで)実現できているという事です。

NTIC:粉末冶金だと、そんな状態になるのですね?

松原:でも、あくまでも粉末冶金なので、材料をある程度たくさん使うことになります。表面に付与される機能だから、下の方は無駄なわけです。それ粉末冶金だと、固める都合上複雑な形状のものは難しい。

NTIC: そうなると、めっきの方がとなりますね?

松原:はい。複雑な形状のところに、個体潤滑性=潤滑剤なしの潤滑性が付与できたら、いろんな可能性が開けるのではないかと思ったのです。最初の2~3年は何をやってもナノダイヤモンドはめっき膜には入ってくれず諦めかかったのですけれど、その後あきらめずに地道な研究を続けた結果、努力の甲斐あって幸運にも14%くらいまで入るようになりました(図2)。

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真

 たとえば銅板にナノダイヤモンド入りめっきをつけるとこんな感じ(図3)になります。

NTIC:それで、摩擦係数も改善がみられるようになったのですね?

松原:7%くらい入った膜について実際に試験をしたら、摩擦係数も10の-2乗くらい(転がり摩擦の一歩手前)の特性が潤滑剤なしの条件下ででました(図4)。ただこれはチャンピオンデータですので、実際に応用する際には個々のケースに応じていろいろと試してみる必要があります。

 

ナノダイヤモンドの特性

NTIC:粉末冶金の場合は表面の状態をミクロでみると、かなりポーラス(多孔質体)ですよね。ポーラスである事が、摩擦係数に寄与しているということはないのですか?

松原:文献に報告されていたその実験はアルミニウムだったのですね。アルミニウムでポーラスだと、機械的に弱くなってしまうというのがあります。また、ポーラスな構造の中に粒子が入った場合に、粒子がしっかり固定できるかというところにも疑問があるので、そのポロシティーが摩擦係数低下の原因だとは思っていません。ただ、潤滑剤を使うような用途の場合は、ポーラスである事がプラスに作用することもあると思います。

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真

NTIC:なるほど。

松原:実は、この材料でどうして摩擦が減るのかというのは、まだ解明されてはいません。色々な説があります。なかでも有力だといわれている説は、ダイヤモンドが表面から一部転がり落ちて、表面を転がっているのではないかという説です。

NTIC:その節が有力なのはどうしてですか?

松原:STM(走査型トンネル顕微鏡)でその表面の形状を測っていくと、何か粒子を乗り越えるような形状を示す、それがナノダイヤモンドくらいの大きさだそうです。そして同じ場所を反対向きにまたなぞると、その位置が少しずれるそうです。そのずれが、ナノダイヤモンドが転がったくらいの距離だそうです。それを論拠にして、表面に転がりでたものが転がり摩擦となって潤滑を出しているのではないかというのが、一応有力な説ですね。

NTIC:それでは消耗が大きいということになりませんか?

松原:表面を転がるものがどこかにいってしまうわけですから、消耗しているだろうと思われると思います。でもナノの世界なのでそうとう数が多いわけですね。それが、例えばµオーダーの消耗につながるまでは、相当長い時間がかかります。とすれば、あながちすぐ減ってしまってだめだというわけではないのではないかと思います。ただ、あくまでも1つの説なので、本当にこのようなしくみで潤滑しているのかどうかは、疑問をはさむ余地はあると思っています。

NTIC:ダイヤモンドの特性についてお話願えますか?

松原:ダイヤモンドは純粋な炭素でできています。同じような純粋な炭素でできているものに、グラファイト(黒鉛)があります。どんな違いかというと原子の配列が違います。

NTIC:イメージ的に言いますと?

松原:グラファイトは、結びつきが、カメの甲羅の模様のように平面(層)です。そしてその層が積み重なってできています。層と層の間には強い結びつきがありません。ずれやすい、すべりやすいのですね。だからグラファイトはすべすべしていますよね?
 箱根の彫刻の森とか美ケ原の高原美術館とかにある、人間が両手両足を左右に開いて上下左右に結びついているような彫刻があるのをご存じですか?ダイヤモンドはあの形です。人間の心臓の部分に炭素の原子があって、隣の人間と手と足が結びついています。あの形で3次元的に結びついているから、どこかが崩れようとしてもしっかりと手を足で結びついていますので崩れないのですね。だからダイヤモンドは硬い。

NTIC:はい、イメージできます。

松原:ダイヤモンドとグラファイトというのは、そういう風に、元素の結びつきが違うだけなので、ナノまで小さくなったときに、その表面にダイヤモンドではない、グラファイト型の構造が少しあるかもしれないというのが、今議論の対象となっています。

 

ナノダイヤモンドとの出会いと研究領域

 

NTIC:それは、ナノダイヤモンドについて研究をされたきっかけは?

松原:当時の、服部学長ですね、服部先生から突然私に電話がかかってきたのです。
「もしもし」
「はい、松原です」
「あの、服部ですけれども」とおっしゃったのです。
ハットリ?んー誰なんだろう、知らないのだけれどもな、と思って
「どちらのハットリ様ですか?」と喉まで出かかったときに、待てよと思って・・・。
「あ、学長先生ですね」と。…よかったなーと安堵しました(笑)。
「服部先生、何でしょうか?」
「実は、私の大学の同門の○○さんから、ナノダイヤという新しい材料がある、でも、それはめっきできないという噂を聞いた。その人が、「服部君のところにめっきをやっている人っていないかのかね?」と相談をもちかけてきたのだ。海千山千の全くわからにものなんだけど、あなた、これをやってみる気はありませんか?」という電話だったのです

NTIC:それを受けたと?

松原:その時に、頭の中に浮かんだことがありました。勿論、服部先生の顔も浮かんだのですけれど(笑)、同時にもう一つ浮かんだのは、「やりますか?」というダイヤログボックスの画面だったのです。それには、OKボタンしかありませんでした(笑)。

NTIC:NOはなかったのですね?(笑)

松原:はい、NOはなかったです。OKをクリックしました。迷わずに、それがきっかけです。天から降ってきたんです。研究を始めるにあたって声をかけてくれた方というのが、黛さんという方で、その方が当時、東京ダイヤモンド工具製作所という会社に要職でいらっしゃいました。その東京ダイヤモンド工具製作所という会社は、ロシアからナノダイヤモンドを輸入して用途を開拓しようと考えていました。それまでは、ミクロンダイヤモンドを使っていたのですね。ナノダイヤモンドというものに対しては、正体も用途もわかっていなかったのです。何か使い道はないのかなということを考えてみることにしました。そういった経緯で研究はスタートしたわけです。

NTIC:その研究は日本でも最初にですか?

松原:先行研究はたしか東京都立産業技術センターで1件だけありました。「めっき膜の中にナノダイヤモンドは1~2%位しか入らない」という報告でした。

NTIC:今は先生のように、ナノダイヤモンドについて研究されている方は一杯いらっしゃるのですか?

松原:そんなには増えてないと思います。ドイツや中国、それからナノダイヤモンドの本家本元ロシアにはいます。ですが、ロシアの情報って、あまり出てこないのですね。ですから、本当のところはよくわかりません。

NTIC:日本には、先生だけ?

松原:この材料にこだわってずっとやり続けているめっきの研究者はほとんどいませんが、企業で開発を手がけているところはあると思います。最近になって、水面下の動きですので実態は正確にはわかりませんが、一部新聞発表もされています。それ以外は情報はほとんどありません。唯一だと言ってしまうと語弊があるので、ほとんどないというレベルの表現の方がいいとは思いますけれど。

 

めっき業界について

 

NTIC:ナノサイズがるみのめっきといいますと、他に何がありますか?

松原:ナノといいますと、カーボンのナノチューブというのもあります。言葉通り、チューブ=小さな管なのですが、それもナノメートルの大きさなんですよ。形が面白いものだから、フラーレンの時のように色々な面白さがありそうだということで、研究が行われています。これに対して、ナノダイヤモンドは少ないようですね。

NTIC:希少なものなのですね?

松原:ただめっき業界では面白い特徴があって、ノウハウを外に出さないのですよ。めっき業というのは、もともとが、零細企業―町工場から始まった産業です。それぞれの会社が一芸に秀でたものをもっています。だけど、ほとんどの会社は。何故そうなるかということは、あまりわからずにやっています。経験上こうやればいいのだということでずっとやってきた。それがめっき業界の特徴です。

NTIC:理由がわからなくても、実際にそうなればいいということですか?

松原:例えば、新しいものをめっき液の中にいれるときも、少し試してみようと、こっそりとやっていると思うのです。めっきの業界は、ノウハウを外に出さない。だから真似されない。特許申請などお金を出してやる意味がない。そういうことになっていると思います。ただ、ナノダイヤモンドのめっきのような場合には、実用化にあたっては特許の調査は重要だと思います。

 

 

ナノダイヤモンドの消費と用途

松原:実はナノダイヤモンドというのはロシアが本元で、1960年代軍事技術で作られました。その後は、若干ロシアの息がかかっているところ=ベラルーシとウクライナ、あとは中国でも作られています。
 アメリカでも一時躍起になって、デュポン社に大枚払って作らせたそうです。で、もう少し大きい数十ナノメートルのものは作れましたが5ナノメートルのものは作れなかった。日本でも住友石炭鉱業(現:住石マテリアルズ)が北海道の鉱山を閉山したあとに作ろうとしましたけれど、まだナノメートルまではどうでしょうか…。
 それでは、モノの流れを追跡してみるとどうかというと、日本国内ではどうもt(トン)の単位で消費しているらしいのです。
 そのくせほとんど、どこに使っているかわかっていません。めっきにも使われているとは思いますけれどもね。でも、実は、こういうもの(シャープペンシルの替芯)があります。これがそうです。三菱鉛筆の「ユニ・ナノダイヤ」というのですよ(図5)。

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真
図5 ナノダイヤモンドとシャープペンシルの替え芯

NTIC:この芯の中に、ナノダイヤが入っているのですか?

松原:1本に4億個入っていると書かれています。

NTIC:そんなに入っているのですか?これは高いのでは?

松原:普通の値段でごく普通にコンビニでも売っています。これはとても重要なことを意味しています。ナノというのはやっぱりすごく小さい。4億個を集めてもわずかな量にしかならない。値段には響いてこないのでしょうね。そして、このようなわずかな量であっても個数としては莫大なものになる。つまり少量の添加で物性の大きな改善が期待できるわけです。

NTIC:先生は、どんなものに使われようと考えていますか?

松原:ピストンリングとしても用途の検討をしています。ピストンリングというものは、擦れるものですから、これが有効かと思います。もうひとつ考えているのは、携帯電話やノートパソコンのヒンジなんですね。。

NTIC:ヒンジというと?

松原:二つ折りのちょうつがいのところです。そこは、ものすごい回数開けたり閉めたりするのですね。

NTIC:はい、摩耗したら壊れてしまいますよね?

松原:そこの部分に一部めっきが使われているのですけれども、そのめっきの中にダイヤモンドを入れたら良くならないかなと考えています。ノートパソコンにもヒンジがありmすよね?
 ノートパソコンであれば、どんどん薄型化するであろうし、ですが、画面は大きいまま、すると、ヒンジというのは、小さくて強い力に耐えなければならなくなっています。擦れても傷がつきにくいものであることが必要になってます。そういうところにまずは用途がないかなと狙っています。

NTIC:もう既に築かれている連携で、商品化に向けて応用研究されているということですよね?

松原:そうです。

NTIC:今のピストンリングにしても、携帯のヒンジにしても、ストロベリー・コーポレーション、日本メッキ工業、小西鍍金、既にそういう企業と関わりがありますからね。で、そういった意味では、今の先生の研究内容をターゲットに向けて、実用化に向けてさらに広くアピールするという必要性は現時点ではないのですか?

松原:今現在しているところに関してはこれでいいのですが、他にも用途はまだたくさんあると思うのです。

NTIC:先生のお考えとしては、今のそれらのターゲットにしている以外にも、お付き合いをしてもいい企業はたくさんあるなと?そしてもし、それが進んでいくのだったら、多くのところとお付き合いだいと、そういうお考えだということですか?

松原:はい、ただこちらのマンパワーにも限界がありますので、丸投げされても受けとめられないかもしれません。

NTIC:企業の方が中心になってやっていくとに対して、先生がアドバイザーなり、技術移転の中心になれるか、という形で会社にはアピールでも大丈夫ですか?

松原:はい。大丈夫です。気軽にお声がけいただきたいと思っています。

 

ナノダイヤモンドの複合めっきのコスト面

 

NTIC:もう一つお聞きしたいことは、ナノダイヤを使ってのめっきは、コスト的にはどうでしょうか?

松原:だいたい、まだ1グラムあたり1000円以上2000円を下回るくらいです。だから安くはありません。ダイヤモンドというのはミクロンサイズのものが一番安くて、それ以上小さくても大きくても高くなってしまうので。

NTIC:小さくても高くなってしまうのですか?

松原:すが、めっきというものは、つけたいものの上に選択的につくわけです。ということは、材料の利用効率は、基本的に膜作りとしては悪くないのです。スパッタも蒸着も同じ膜を作る手法ですが、それらはみな製造装置の中にどこもかしこもついてしまう。でもめっきは、つけたいものの上だけにつくのです。ただし、めっき膜というのは使っていくうちに老朽化します。そうしたら遠心分離をかけて、ナノダイヤモンド粒子を取出します。そして再利用ができるのです。

NTIC:再利用ができるとなると、コスト面でもいいですよね?

松原:うちのビーカースケールの実験では、再利用を5回繰り返しても、めっき膜の特性は変わりませんでした。そう考えると、実質的なコストというのは、そんなに大きく乗ってこないと思います。部品の値段-今までのめっき自体が安いですので、それを考えると倍とかになってしまうかもしれませんが、でも性能や寿命も考慮すればコスト・パフォーマンスは高まる可能性もおおいにあると思っています。

 

ナノダイヤモンドの複合めっきの広がり

NTIC:無給油で潤滑できる状況だったら、機械的に動く部品を扱っているところに対しては、 ものすごい広がりがありますよね?可能性があります。

松原:今、高性能の要求されるものにはDLC(ナノダイヤモンドライクカーボン)をつけていますよね?DLCというのは真空の中で蒸着しても作る方法なので、凹凸のあるもの、特に凹の方には影になってうまくつかないのですよ。また、摩耗した場合、はがしてつかなおそうと思っても硬くて取れない、化学的にもうまく溶けない。ですから単純な形状のものを1回数限りで使うのだったら、とてもいいと思います。

NTIC:そうですね。めっきの場合だと?

松原:めっきというものは、複雑な形状のものにもつくし、少し減ってうまくいかなくなったら溶かしてしまえばいいというのがあるので、また、つければいいと。無駄な広がりがあると思うのですよ。
 機械設計する場合も、今は、そんな複雑な形状で摩耗利用したら、うまくいかないのではと思って、最初から設計しないというのもあるかもしれません。でも、この方法があって、もし潤滑がうまくいくんだったら、複雑な形状の摺動部品を作って、もっと機構を合理化することができるかもしれないですよね。機械屋さんに、こういうものがあるよと知っていただいて設計してもらいたい。そういうことも、夢の夢としてはあるところです。

NTIC:素晴らしい広がりですね?

ナノダイヤモンド粒子の電子顕微鏡写真
図6 まずはお声がけ下さい(談)

松原:ただ、今は実績がないから何ともいえません。だから「私の会社の技術に導入して、本当に大丈夫ですか?」と聞かれても現時点では太鼓判は押せない。さらに企業とタイアップして地道な応用研究を続ける必要があります。
 用途としては、潤滑剤を用いる用いないにかかわらず、まずは摺動部品。それも面圧がそれほど高くなさそうなものから始めて、印刷関係の何かとか、プラスチックの成形の型、電子材料のコネクタなどに可能性がありそうです。大学の研究にもいろんなタイプがありますが、この研究テーマについては是非とも実用化までこぎつけたいと考えています。そして世の役に立ちたい、と。まずは、遠慮なくお声がけしていただければと思っています(図6)。