物質材料工学専攻 准教授

石橋 隆幸


3Dテレビ

磁気イメージング

産学連携について

近接場磁気光学顕微鏡

 

3Dテレビ

NTIC:先日、新聞に掲載されていたNHKとの共同研究について簡単に教えて頂けますか?

石橋:簡単に説明するのは非常に難しいですね(笑)。今、電気屋さんで売っている3Dテレビは、右目と左目の違いだけを見せているだけのものなのです。右目と左目にずれた映像を送り込むことで、実際には平面であるテレビ映像を立体的に見せているのですね。ですから情報が少なくて、横から見ても上から見ても横や上からみた3Dには見えません。
我々の目指しているものは、本当に物から来る光をそのまま再現しましょう、ということを目標にしています。具体的にはホログラフィと言う技術を使います。ホログラフィとは、3次元像を平面に記録・再生する技法のことを言います。この技術を使って立体映像を特殊な眼鏡も使わず、自然に動画で見えるようなテレビを作りたいというのがプロジェクトの目的です。
このホログラフィ技術をテレビで再現するには、超微細なデータが必要となります。現行のディスプレイの1画素は高精度のものでも0.2ミリ(200ミクロン)なのですが、その画素の大きさを更に小さく100分の1以下にしなければいけません。そうしないと立体のものは表現ができないのです。でも、今ある液晶テレビやプラズマテレビでは画素を小さくする技術がないのですよ。技術的に難しいと言われています。だったら、もっと別のしくみで小さな画素を持ったディスプレイを作りましょうということで、NHKからご提案をいただいて始めました。
実際にどういうものを使うかと言うと、簡単に言うと磁石を使います。これをまた説明をするのが大変なのですが(笑)、液晶テレビのしくみってご存知ですか?

NTIC:すみません。教えて頂けますか?

石橋:学生に説明する用のスライドがあるのでご覧ください(図1)。この場合は透明の磁石で説明しています。光には波の性質があるのはご存知ですか?

NTIC:はい。

石橋:偏光板ではある方向に振動している波を作ることができます。偏光板を通り抜けた光は一方向に振動している光なのですが、もう一枚一方向に振動している光しか通さない偏光板を持ってきてそれを90度回転させると光をカットできます。この間に偏光面、振動の方向を回転させる材料が入っていれば、真っ黒な状態からぱっと明るくできます。そこに液晶が使われています。それが液晶ディスプレイです。この辺は専門の木村先生に聞いていただければ(笑)。
液晶ディスプレイの場合は、液晶を使って光の振動方向を回すということをしているのですが、偏光板を回すのは液晶だけでなく、磁性材料でもできるんです。磁石を使う利点は非常に早く切り替えられることです。液晶ディスプレイだと100分の10秒とか20秒の時間がかかるのですが、磁石だとその1000分の1の速さで切り替えられます。更に磁石の特徴は簡単に小さいものが作れます。磁石だと、半導体と同じプロセスが可能なので小さいものができるんです。USBメモリはご存知ですか?

NTIC:USBメモリは知っていますが、構造までは判りません。

石橋:USBメモリは半導体で作られています。これは1か0かを記憶できればいいもので、その半導体の素子を使って1か0かを大量に記憶しています。今、メモリを磁石で作りましょうという話があります。磁石を二つ並べて重ねて、この片方の磁石のN極とS極の向きをパタッとひっくり返してデータを記録します。この磁石を二つ重ねた構造と言うのはメモリとしてすでに開発されていますが、さっきお話をした光の振動方向のスイッチもできます。この素子の特長は、ものすごく小さいことです。100ナノメートル(1ミリの1000分の1)の大きさで作られていますので、これをそのままテレビに使っちゃえばものすごく小さな画素を高速で動かすことができるのではないか、というのがそもそもの発想です。絵としてはこんな絵ですね(図2)。磁石をダーッと並べてここに電極を付けてパタパタパタとひっくり返しましょうと。

NTIC:先ほど先生が比較されていた、液晶よりも小さくて速いとおっしゃっているのは、磁石の粒子が液晶に比べてものすごく小さくなっていて、それがコントロールできるので小さくて速いということですか?

石橋:違います。私も液晶のことは詳しくは知らないのですが、液晶を駆動するのには、後ろにトランジスタを付けたり、液晶自身の厚さが非常に厚いものが必要なんだそうです。そういういろいろな理由で1ミクロンの大きさまで小さくできないらしいのです。

NTIC:余計なメカニズムが付いているということですね。

石橋:はい。あとは、液晶自身の構造のせいで小さくするのが難しい。磁石を使った場合は完全に半導体と同じプロセスで作れますので、小さいのを作るのには何の問題もない。逆に小さすぎて、我々が使うのにはもう少し大きくしたいのですが、大きくするのが難しいくらいなのです。この素子のもう一つの特長は、磁石の向きを変えるのに、電流を流してできるということです。5~10年くらい前まではできなかったのですが、最近急速にできるようになった技術で、今は学会では当たり前になっています。

NTIC:電流を流すと磁石の向きが変わるという原理原則がわからないのですが。

石橋:原理はですね、金属材料の中にある電子には上向きスピンと下向きスピンの2種類あり、それらは普通は同じ数だけいるのですが、磁性体ではそのバランスが崩れています。そのバランスが崩れているのが磁石の原因にもなっていて、例えば二つ重ねた磁性体に下から電流を流すと上向きのスピンをもった電子がたくさん上の磁性体に流れ込むのです。その時に上の磁性体が下向きのスピンをいっぱい持っている状態だと、それが下からやってきた上向きスピンにスピンの向きを反転させられちゃうのですね。つまり、下向きスピンのモーメントが下向きスピンに移されてそれでパタッとひっくり返るんです。逆に、上から同じ向きの状態で電流を流してやると、上向きのスピンはそのまま通り抜けるのですが、下向きのスピンは跳ね返されちゃうのですね。そうすると、下向きのスピンがたまるので、上向きスピンが下向きにパタッとひっくり返るという現象が起きます。これをスピン注入磁化反転と言います。要は、流す電流の方向によって磁化の向きが変わるということですね。向きが変わると偏光面が変わるので明るさがパタパタと変えられるんです。

NTIC:その明るさを変えると浮き出たり浮き出なかったりするのですか?

石橋:そこがですね、実際にこんな感じのものを作ろうと思っています
(図3)。これは電極が付いていませんが、一個一個がさっきの磁石の構造になっていて偏光で見ると磁石の向きによって白や黒に見えるんです。普通のテレビは見たい絵を出せばいいのですけれど、立体の絵はそうではなく、いわゆる光の干渉を使います。干渉縞なので、難しく言うと、ここに出したい絵をフーリエ変換したものということになるんですけれど(笑)。

NTIC:簡単に説明をお願いできますか(笑)?

石橋:そうですね、ガラスの上に細かい周期的な構造のパターンがたくさん切ってあって、そこにレーザー光を当てると、光の周期によっていろんな状況が出てくるのですが、その原理を使って光を当てたときに絵が出るようなパターンを作ることができます。そういうのを、NHKではビデオで録って、そのビデオの絵からホログラフィ用のデータを計算で作るということをやっているんです。私たちの研究ではそれを表示するためのデバイスを作ろうということやっていて、非常に大変なことになっています(笑)。

NTIC:光の波長で違う色が見えますよね。その色が見えるような波長を通すように、磁石でコントロールをしているということですね。

石橋:今のご質問はカラーで出すときの話ですか?それはまだこれからの話ですね。カラーにするためにはいろいろな方法が考えられていますが、そこはまだまだ先の話です。

NTIC:これからの3D画像の研究が進歩していけば、そこまで行く可能性が十分あるということですか?

石橋:はい。将来的なことですね。NHKの話ですが、今、眼鏡をかけないでリアルな立体像を出す方式としては二つ考えられていて、一つはインテグラルフォトグラフィといって、トンボの目みたいなものなのですが、ディスプレイのところにレンズを並べて一つ一つのレンズにそれぞれ違う絵を出してやって合成すると立体に見えるというものが、実際にディスプレイとしてできています。

NTIC:映画の世界みたいに、立体に出て見えるのですか?

石橋:はい。但し、これはレンズを使うので、解像度がレンズの大きさで決まってしまいます。そのため、とても細かいものは難しいだろうと言われています。もう一つは今説明した、ホログラフィという、光を再現しようという技術なのですが、これも課題が山積みしていて、なかなか難しくて、総務省のロードマップを見ても20年後、30年後先でも携帯電話サイズと言われています。遠くを見て研究をしています(笑)。

NTIC:けれど、ここから始めないと20年後にはないわけですね。

石橋:そうですね。ラッキーなのはメーカーさんが手を出すほど現実的ではなく、将来の夢を見てやっているということですね。

NTIC:だから今はNHKとの連携なのですね。今は売れるものではないけれど、映像を提供する側としていろんな研究をされているということですね。

石橋:将来を見据えてやっています。

 

磁気イメージング

 

石橋:研究室としてはこの3Dテレビに一番力を入れているのですが、関連技術として磁性体を使った、センシングと言いますか、イメージングと言いますか、そういう技術の研究もしています。ガーネットという磁性材料を使います。

NTIC:宝石のガーネットとは違うのですか?

石橋:同じものです。ガーネットって結晶構造の名前なのですよ。いろんな組成の違うガーネットがあるのですが、その中に鉄が入っているガーネットもあって、磁石にくっつくんですね。しかも透明なんです。さっきお話しした光の偏光面を回す性質が非常に強くて、今の光通信の中にも使われています。非常に重要な材料なのですが、これを膜にすると非常に面白いことができるんです。例えば、これは電車のカードです。これの上にポンと乗せてやってこれを偏光顕微鏡で見るとここに書き込まれた情報が見えます。実際に見たのがこれですね(図4)。この線が磁気情報ですね。クレジットカードの黒いところも、これを置くと見えます。うちの学科では何を悪いことをしているんだって言われるのですけれど(笑)。これを見たからって別に悪いことができるわけじゃないのですけれどね(笑)。

NTIC:先生と同じような研究をされている方は全国にはたくさんいらっしゃるのですか?

石橋:超電導工学研究所が一生懸命やっていましたね。超電導は抵抗ゼロで電流が流れるのですが、どこにどれくらい電流が流れているのか見えないわけですよ。でも、ガーネットを乗せて電流が流れると磁場が発生します。磁場を可視化してやれば、傷とか欠陥があればそれをよけて電流が流れるのでぱっと見えちゃうので。
私の研究室の技術でやっている機関も何か所かあります。名工大・阪大・東大の先生方は、私が教えた技術を使っています。あとは別の目的にも使えることが最近分かって、東北大の先生はその研究をされています。実はこれは発電するんです。スピンゼーベック効果というものが見つかって、温度の差を利用して電流が取り出せるんです。私たちの方法を使うと簡単にガーネットが作れるので、その辺でも今後乞うご期待という材料です。

NTIC:基本的には熱変換素子と考えていいですか?

石橋:そうですね。若干違うのが、スピンが関係していて取り出し方が違います。これ自体は絶縁体なのですが、その上に金属を乗せるとスピンゼーベック効果とによって金属から電流を取り出せるそうです。

NTIC:先生のされている研究の目的はいわゆる磁気を可視化したいというところから始めているのですね。

石橋:はい。

 

産学連携について

 

NTIC:ところで、先生はもとは電気屋さんですか?基本的には物質・材料系は化学屋さんと言うイメージがあるのですが。

石橋:化学じゃないです。どちらかと言うと、物理か電気ですね。大学は筑波の基礎工学だったので物理も化学もいる学科でしたが、その中でも物理寄りでした。あんまり電気屋と言う気はなかったのですが、農工大にいたときに電子情報工学科の助手になったので、そこで磁気の勉強をさせて頂きました。

NTIC:既にいろんな企業さんとやり取りをされていると伺いましたが、いま現状これ以上突き詰めて企業さんと共同研究をされるということは遠慮されているのですね。

石橋:はい。相談に来られたら相談には乗れますが、共同研究的な面では手一杯ですので。でも、アドバイスをいただけますかと言うものは対応させていただきます。

 

近接場磁気光学顕微鏡

 

石橋:今、私の研究室で一押しの研究を説明していいですか?

NTIC:是非お願いします。

石橋:今、世の中で磁性の分野でもイメージング、磁気の可視化が注目されています。だんだん磁気情報が小さくなっているので、それをどうやって見ましょうかということで、たくさんの方法があるのですが、10ナノメートルくらいの分解能で見るっていう技術がほとんどないのですよ。特殊な装置を使って、何ヵ所かではできるのですが、そういう10ナノメートル領域の磁気情報を何とか簡単な装置で、大学の研究室でもできる技術でという研究をしています。
そこで、私の研究室では光学顕微鏡を使って10ナノメートルの領域の磁気情報を見ようとしているのですが、通常、光学顕微鏡で小さいものを見ようと思うと、大体光の波長の大きさくらいなのです。例えば緑色だったら、500ナノメートル(1ミクロンの半分)ですね。もっと細かいものを光で見たい場合、特殊な方法を使います。7~10ナノメートルという細い先端を持つ針を観察したい試料の非常に近くまで近づけて、そこにレーザー光を当てます。すると、先端に光が集まります。非常に狭い領域に光が集まってそこから光が戻ってきます。普通は500ナノメートルくらいの大きさしか見えないところが、10ナノメートルくらいのところからの情報が取り出せます。そして、順番に針を動かしていくとマッピングができて分解能の高い絵が測定できます。実際にこれが測定した結果(図5)なのですが、1ミクロンがこんなに綺麗に見えます。私の研究室で目指しているのは、この技術を応用して10ナノメートルの磁性体の情報が取り出せる世界トップの顕微鏡です。

NTIC:今はこの光だけが見えるから、細かいところまでは見えないということですか?

石橋:今日、ずっとお見せしてきた磁性体と光の関係ですね。偏光で、磁区の磁性体の磁石の方向と偏光の方向は関係がありますから、いわゆる偏光顕微鏡を通してみた偏光の絵を見ると、磁石の方向に応じた白黒のコントラストが出るのですが、それをこの分解能で見ましょうというところですね。

NTIC:今までは、書き込まれている情報を目で見る必要はなかったけれど、そういったものを目で見られるようにと言うことを追いかけているわけですね。

石橋:ハードディスクでも書き込む大きさがどんどん小さくなってきているんです。その小さくなっているのに、観測技術が追い付かなくなっているので、何が起きているか見える装置を作りたいんです。

NTIC:何が起きているか見えると何が良いのですか?

石橋:欠陥を探せる。今までは見てなくて磁気情報だけでデータの管理をしていたけれど、壊れるときがありますよね。その壊れたものが見えたら、何が原因かというのがわかる。

NTIC:なるほど。それが3Dのテレビの方に行ったり、高精度な顕微鏡に言ったりと、ものすごく応用範囲が広いということですね。

石橋:キーワードは磁性体と光ですね。そこから検査からテレビの応用まで。もしかすると、発電まで。

NTIC:すごいですね。広がりますね。

石橋:研究室の名前を変えようかなんて考えています(笑)。
非破壊検査の領域は、私は全然知らなかったのですが、かなり需要があるみたいで、いろんな全然違う分野からもお話をいただいています。

NTIC:今までは超音波やX線でやってきたことを少し違う見方でやりたいということですね。

石橋:空間分解能を考えたときに、他の技術ではそんなに高くないのですよね。分解能がこの技術を使うと結構いいところまで、できますので。

NTIC:そうなんですね。今の顕微鏡の話でもどれだけ細かいところまで突き詰められるかですもんね。

石橋:本当は3Dの映像なんかをバッとお見せできればわかりやすかったのですが(笑)。ついたり消えたり、静止画はできているのですが、動くものは20年くらい待っていただければ(笑)。

NTIC:はい。では、20年後を楽しみにしています(笑)。 
今日はお忙しい中、ありがとうございました。