物質材料工学専攻 助教

白仁田 沙代子


燃料電池の研究

NTIC:先生の研究について教えて下さい。

白仁田:私は、長岡技大に来て3年目なのですが、長岡技大に来る前の学生時代は触媒と呼ばれる、人間の身体の中でいうと酵素のような働きをするものを研究していました。
触媒は特定の化学反応の反応速度を速め、より低温でも反応が進むようにしてくれる物質で、基本的には反応の前後で変化しないものです。液体や固体といった色々な形態のものがあります。その触媒の研究をメインでやってきていたのですが、今は、梅田教授のもとで、燃料電池に使う電極触媒を研究しています。

NTIC:前に研究されていたことも生かしつつ、研究されているということですね。
先生は大阪大学で博士の学位を取られたと伺いましたが、卒業してすぐに長岡に来られたのですか?

白仁田:学位は2009年の9月に大阪大学で取得しました。2009年4月からJSPSの特別研究員として採用されていたので、半年間ポスドクとして大阪大学の研究室に籍を置いたまま、後半3か月はトリノ大学に研究留学させて頂きました。そして、2010年4月に本学へ着任しました。いろんな先生方に恵まれて今があります。

NTIC:それは先生の実力もありますよね。
燃料電池はこれからますます発展する分野と考えてよろしいでしょうか。

燃料電池の原理


白仁田:そうですね。燃料電池の実情として、今はリチウム二次電池におされているところがあり、学会に行ってもリチウム二次電池のセッションの方が圧倒的に多いです。ただ、震災後、いろいろな声は上がってきていて、燃料電池も見直されてきています。

  新潟県でも家庭用の燃料電池はすでに販売されていますし、結構導入されているご家庭もあるようです。家庭用の燃料電池エネファームはご存知でしょうか(図1)。天然ガスやプロパンガスを燃料にして、そこから水素を取り出して、空気中の酸素と水素で発電させます。発電時に熱も出るので、その熱はお湯として貯めておいてキッチンやお風呂で使います。
  燃料電池の原理は、水に電気をかけると水素と酸素に分かれるという実験を小・中学校の時にされたことがあるかと思いますが、簡単に言うとその逆反応になります。水素と酸素から電気と水を作り出すイメージです。ただ、同時に水素と酸素を混ぜると爆発してしまいますので、図2に示すように電解質膜を使います。水素が電極(燃料極)表面でプロトン(H)になり、電解質膜を通って移動し、反対側の電極(空気極)上で酸素と反応して水になります。その時に電子が流れるので発電ができるという仕組みです。私は、水素を酸化させるアノード触媒と、逆側の酸素を還元するカソード触媒の研究をしています。

NTIC:燃料電池の効率は触媒で決まるようなものですか?

白仁田:そうですね。触媒と、電解質膜のプロトン導電性と他にもいろんな因子があり、総合的な話になります。市販されている触媒はすでにあり、その触媒の中でカーボン上に白金が乗っかっているものが主に使われているのですが、白金が運転している間に溶け出してしまう問題があります。

NTIC:溶けるというのは、電解で溶けるのですか?熱で溶けるのですか?

白仁田:原因はいろいろですね。熱による白金粒子の凝集ですとか、酸化還元中に発生してくる過酸化水素といった副生成物。そのまま水まで還元されればいいのですが、中間体として過酸化水素が発生してしまい、そこに電位がかかっているため白金が溶けるということを当研究室で見出し報告しています。
また、白金の値段自体が高いということで、この家庭用のエネファームも170-300万円くらいしますので。

NTIC:そんなにするんですか。

白仁田:はい。2005年で800万円だったのが、2012年には300万円程度まで下がっているのですが、普通に買ってもらえるには70-80万円くらいでないと難しいですよね。企業側としても2015年を目標に研究をしているという報告を2012年の春の学会で聞きました。

NTIC:高いものなのですね。

白仁田:ですので、高くなる要因の白金をなるべく少ない形で使えるような触媒を作りたいと考えています。

NTIC:触媒としての白金は消耗品なのですか?

白仁田:そうですね。劣化してしまうと、交換するしかありません。重量は変わらないですけれど、触媒反応は、白金の表面で起こるので、同じ質量があっても小さい粒子で分散している方が反応する触媒表面の面積が広いほど活性は高く、凝集してしまうと、表面積が低下するので、活性も低下してしまい、発電効率は落ちてしまいます。

白金に代わる触媒

NTIC:白金に代わるものが出てくるのが期待されているのですか?

白仁田:そういった研究もされていますね。脱白金触媒として遷移金属を使った研究ですとか、あとは、白金だけではなく別の元素を組み合わせて白金の使用量自体を抑える、白金と金の合金触媒といった研究もあります。しかし、現在は金自体の価格も上がってきていますので、白金の使用量が減っても値段が下がらないということもありますね。

NTIC:先生自身も研究されているのですね。

白仁田:はい。私自身も白金の使用量を少なくした触媒の研究をやっています。なるべく白金が小さい状態で反応に使用できると効率が良いので、小さな粒子サイズを制御できるような研究をしています。酸素還元側は、白金の粒子サイズの違いでの反応活性が変化することが報告されているのですが、逆の水素酸化触媒の研究報告はあまりないので、今は水素酸化触媒に絞って研究しています。

NTIC:そもそも燃料電池というのは、最近出てきた理論なのでしょうか。

白仁田:理論としては昔からあるものです。燃料電池の原理をイギリスのグローブ卿が実験で確認したのが1839年でしたので、原理が実証されてから160年以上たっていることになります。

NTIC:結構な歴史があるのですね。他の電池と比べての特徴はなんですか?

白仁田:特徴としてはCOを排出させない。水素と酸素からは水だけしか排出しないので、クリーンと言う点ですね。あとは、車に乗っているバッテリーや、携帯電話やデジカメに入っているリチウム電池等の二次電池は、使ったら、そのあとは充電してからでなければ使えませんが、燃料電池の場合は、水素と酸素を入れ続ければ常に発電し続けます。必要なときに燃料を入れてあげて発電する、というイメージです。

NTIC:電池と言うより発電機と言った方が正しいのかもしれませんね。

白仁田:そうですね。発電機です。

NTIC:先生はどういう風に研究を進めていらっしゃいますか。

白仁田:今までは光触媒の反応を使って、白金や金などの小さな粒子を担体上に、紫外光照射によって作製するような研究をしていましたので、それと同じ技術を使って電極触媒に応用できないかと考えています。今までは単なる触媒だったので、担体材料の導電性は考える必要がなく、触媒表面に物質が吸着して反応した後に、脱離していくというだけの話しでよかったのですが、電極触媒では吸着したときに、そこで電子のやり取りがあって初めて反応が進むので、担体材料の導電性も考慮しながら進めていこうという段階でやっています。

燃料電池研究のきっかけ


NTIC:燃料電池の研究を始めて3年目と伺いましたが、燃料電池を研究してみようと思ったきっかけはあるのですか?

白仁田:きっかけは、梅田研究室に着任したことですね。梅田先生は燃料電池もされていますし、二次電池や有機デバイスの研究もされています。私はその中の燃料電池関連の研究を学生とやっています。

NTIC:この研究に対して、どこかの企業さんと共同で研究はされていらっしゃいますか?

白仁田:直接、私がやっている研究に関してはないです。ただ、燃料電池と言っても色々な研究がありますので、その中で一部、梅田先生と共同研究をされている企業さんはあります。

NTIC:先生はこういった企業さんとお付き合いをしてみたい。と言うのはありますか?

白仁田:正直、まだ考えたことはないですね。共同研究ができるような段階ではないと思いますので。

NTIC:燃料電池の効率はどのくらいなのでしょうか。

白仁田:一応燃料電池としての理論効率は80%なのですが、途中で触媒が劣化したり、電解質膜と言う高分子で作られている膜がボロボロに切れてしまったりと言う劣化がどうしても起こるので・・・。

NTIC:それはどのくらいの年数で起こるものですか?

白仁田:たぶん、それぞれの使用状況によると思いますが、市販されている触媒の寿命は2年程度ではないでしょうか。家電はだいたい寿命が10年と言われているので、燃料電池も公には9年を目指している状況ですね。そういった意味ではまだまだ研究開発が必要な段階です。

NTIC:燃料電池の一番のテーマとしては効率を上げることよりも、むしろ寿命を延ばす方が重要なテーマですね。

白仁田:そうですね。寿命を延ばすことと白金の使用量を削減するところが重要だと思います。

NTIC:昔から白金回路とか、何かと白金を使いますよね。なぜ白金なのですか?

白仁田:触媒の性能の一番の鍵になるのが、物質の吸着と脱離過程になります。吸着したままですと、使用できる触媒表面が少なくなりますので、いかに早く吸着して、反応して、早く脱離していくかが鍵なんですね。その吸着しやすくかつ脱離しやすい表面をもっているのが、白金、パラジウムなどなんです。

NTIC:貴金属ばかりですね。

白仁田:そうですね。貴金属が一番得意で、ある意味万能ですよね。ある程度どの反応に対しても使えます。ただ、埋蔵量が少ないですし、そこが貴金属と呼ばれる所以ですが、高いし、取れないし、減ると困りますよね。

燃料電池普及のカギ

NTIC:今、リチウム電池に押されているとのことでしたが、燃料電池がリチウム電池を追い越すという可能性はあるのでしょうか。


白仁田:そうですね。リチウム二次電池は性能としては、もうすでに出来上がっているという意見もあり、今後は伸びしろが少ないと思うのです。そんな中で、今普及してきているスマートフォンやiPhoneは電池の減りが早いですよね。その電池の減りに対応できるのではないかと言われているのが燃料電池なんです。水素と酸素からだとボンベが必要で大きくなってしまいますが、燃料電池の中で、直接アルコール形燃料電池というのがあり、これは水素の代わりにメタノールを使うのですが、これだと小型化ができると期待されています。ただ、まだ現状だと図4のような大きさで、大きいのですが、それを小さくして携帯に内蔵できるようにするのが目標です。

NTIC:こういった研究はオモシロイですか。

白仁田:そうですね。未知の世界ですので、新しい結果が出るとうれしいですし楽しいです。答えが見えないところをやっているので、大変な部分もありますが。

NTIC:男性が多い職場で、女性ならではの苦労とかもありますか?

白仁田:そんなにはないですね。逆に私が気づいていないだけで、周りの方々が気を遣ってくださっているのかもしれませんが(笑)。

NTIC:快適な環境で研究できるというのは、いいことですね(笑)。良い研究結果を期待しています。
今日はお忙しい中、インタビューに応じていただきありがとうございました。