原子力安全工学専攻 教授

鈴木 達也

同位体分離


NTIC:先生の研究内容をお聞かせいただけますか?

鈴木:私の研究は基本的に分離する、というものです。私は原子力安全系にいますので、主に原子力の再処理に絡んだ各種分離と、同位体の分離です。

 同位体とは、同じ元素の中で質量の違うものを言います。例えば、炭素の同位体は炭素8から炭素22までの15種類が知られているのですが、そのうちの2種類(炭素12と炭素13)を安定同位体と言います。そういった同じ元素の中で質量が異なるもの同士を分けることを同位体分離と言います。

NTIC:それを分けると何が起こるのですか?

鈴木:色々使えるものがあります。例えば炭素ですと、ピロリ菌の検査に使えます。炭素13を濃縮したものを吸って吐かせて、その代謝を調べるとピロリ菌がいるかどうかわかります。

NTIC:医療面にも使われているのですね。炭素12と炭素13、1違うだけでそんなに性格や性質が違うのですか?

鈴木:少ししか違いません。実際には本当に綺麗に分けるというよりは割合を変えるというものですね。他に、原子番号42のモリブデンは同位体の種類が多いのですが、その中のモリブデン98は、濃縮して中性子を当てるとモリブデン99と言う放射性の同位体元素になります。そのモリブデン99が崩壊して今度はテクネチウムの99mと言う違うものに変わるのです。そのテクネチウム99mはスペクトと呼ばれる癌の診断に使われています。実際にはモリブデン99のまま医療現場に出荷して、そこからテクネチウム99mだけ取り出して癌の診断に使っています。このテクネチウム99mは非常によく使われているのですが、日本では製造しておらず、海外から輸入されています。

NTIC:それは日本には作る技術がないからですか?

鈴木:いいえ。作る技術がないのではなく、現在は同位体を濃縮して作る方法ではなくて、原子炉の中でウランを核分裂させて出たものから取り出しているのですね。カナダや南アフリカで主に作られているのですが、高濃縮のウランは核兵器の材料になるので日本では作れないのです。ただ、今問題になっているのは、カナダで製造している原子炉が老朽化して時々トラブルで止まることがあるのと、南アフリカからはヨーロッパを経由して飛行機で輸入しているのですが、2年くらい前にアイスランドの火山が噴火して飛行機が飛べなくなり、日本から数週間テクネチウム99mがなくなって診断できなくなったことがあったのです。その前から問題はいろいろ言われていたのですが、そういったことがあって日本でもテクネチウム99mを作るためにモリブデン99を製造するにはどうしたら良いのかという話になって、それに係わる研究をしています。

NTIC:では、先生は主に医療の面の研究をなされているのですね。

鈴木:違います。私は同位体を分離することを目的としています。同位体を分離して使われるのが原子力、今の医療の分野で核医学と言われている部分が原子力と密接に係わりのある分野なんですね。

核廃棄物処理

NTIC:先生がされている研究は、今話題になっている汚染水の問題にも役立つのですか?

鈴木:そうですね、同位体分離とはまた別ですが、私は元素を分離する研究もしていますので、さまざまな物質の中から放射性物質である元素のセシウムやストロンチウムを分けたりとか、あるいはもう少し重いものを含めて分けるということもしています。

NTIC:そもそも放射能とはなんですか?

鈴木:放射能は、原子力の不安定な同位体が安定するときに出ていくる粒子、エネルギーが放射線で、その不安定なものが安定なものに変わっていくその能力が放射能です。

NTIC:目に見えないものだけにさっぱりわからないです。

鈴木:でも、放射線は目では見えませんが計測器を使えば非常によく見えて、比較的検出しやすいものですから分かりやすい方だと思います。

NTIC:専門家の目から見て、今、外出しても大丈夫ですか?

鈴木:そうですね。今でも福島の一部地域は非常に線量の高いところが残っていますが、その地域を除けば、福島でも除染されていて低くなっていますので、それほど気にするほどではないと思います。

NTIC:放射性物質はいろんな種類があると思いますが、ざっと何種類くらいあるのですか?

鈴木:とてつもなく多いです。

NTIC:新聞に出てくる数は限られていますが。

鈴木:原子炉の中の核分裂で生じる放射性物質と言うのはそれなりの数があるのですが、それが汚染水側に移行するとなるとまた限られてきますし、また、空中に広がったというものになればかなり数が限定されてきます。

NTIC:燃料棒そのもは輸入品ですか?

鈴木:おおもとのウランだったり金属だったりは海外から持ってきますが、燃料棒そのものは日本で加工して作っています。使用前のものは手で普通に触れるんですよ、。

NTIC:放射能は出ていないのですか?

鈴木:出ていないわけではないのですが、みなさんよく誤解されていますが、ウランそのものは放射能はきわめて低くて、実際規制される前は普通に薬品として売られていて、様々な分野で扱われていましたから。法規則的に言うと放射性物質ではないのです。

 その燃料棒(ウラン)に中性子を当てると核分裂が始まります。中性子を当てた数と核分裂により出てくる中性子の数が同量になるのがいわゆる臨界で、何もなくてもそのままの状態が保てて核分裂が持続されます。その核分裂が起きるとそこから放射性物質が次々とできてきます。放射性物質を作るためではなくて、エネルギーを作るためにやっているのですけどね。

NTIC:その核分裂を止める方法は冷却水で冷やすことですか?

鈴木:違います。中性子を減らしてあげればいいので、中性子を吸収するもの、いわゆる制御棒を中に入れてやると止まります。冷却水は、あくまで温度を下げるためのもので、水がなくなってしまうとグーッと温度が上がって、燃料が溶けてしまいますので、それで水を入れて冷却しているんです。やかんも空焚きすると壊れてしまいますよね。空焚きを防ぐために冷却水を入れているのです。

NTIC:先生の研究は原子力の問題にどのように絡んでいますか?

鈴木:そうですね。ウラン235を濃縮して燃料を作るというのをフロントエイドと言いまして、燃料を入れた後に廃棄物が出てそれを処理することをバックエンドと言いますが、私はフロントエンド側の同位体分離から始まって、さまざまな分離の研究を行いながら、バックエンド側で核分裂を起こした後に出る様々な生成物を取り分けるということをしています。特に私がやっているのは、再処理側では、分離核変換と言う技術があるのですが、その分離側を研究しています。マイナーアクチノイド(MA)ってご存じですか?

NTIC:さっぱりです。

鈴木:まず、アクチノイドというのは原子番号89から103までの元素の総称です(周期表参照)。大体この中で原子炉の中に出てくるのは原子番号92から96です。ウランとプルトニウムは燃料でよく使っていて量はそれなりに多いので、メインのアクチノイド、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムは少量なのでマイナーなアクチノイドという意味でマイナーアクチノイド(MA)と言っています。これらが比較的有名じゃないくせに半減期が長いのですね(数万年単位)。もちろんウランとプルトニウムも長いのですが、もともと燃料で使いますので、このMAを高速炉や加速器駆動未臨界路に入れてあげて、また核分裂を起して、半減期が短いものに変えてあげるような研究もしています。

NTIC:分離させたものを更に核分裂させるということはエネルギーもまた取れるということですね。その上、半減期の短いものに変えてあげるということは、廃棄物の保管場所が少ない日本には朗報ですね。

鈴木:そうですね。実は研究自体は昔からあって、日本ですと分けて半減期のものに変えようという国家プロジェクトは1988年のオメガ計画というところから始まっています。かなり古くからあるのですが、処分する側からすると色々な考え方が世界的にあります。我々、分離核変換の研究者は、廃棄物物中の含まれる核種を分類し、その特性に応じて処理・処分方法を変えることを主張しておりますが、分離せず長期にわたるけれども問題がないように保存して、人間に触れさせないように維持したほうが良いと言う研究者もいますし、色々な考え方があります。どちらかというと、現在は後者の考え方が主流ですが、最近では我々の考え方もマスコミや国会でも取り上げられるようになってきました。また、ヨーロッパ諸国、特にフランスといった原子力を中心でやっている国々のほとんどはMAを分けようという方向で進んでいます。

NTIC:では、これからますます大事になる分野ですね。

鈴木:はい。分け方はいろいろあって、どういう分け方が良いかと言うのは各国々で検討中です。

産学連携について

NTIC:こういった研究は、どこかの企業さんとすでに共同でやっていますか?

鈴木:企業とはあまりしていません。原子力機構ですとか、研究機関とやっていることが多いですね。

NTIC:今後もし、企業さんから相談があったり、何か一緒にやりましょうという話があれば受けられますか?

鈴木:はい。

多岐にわたる研究

鈴木:他にも、先ほどモリブデンの話でテクネチウムの話をしましたが、テクネチウムは医療用に核分裂を起こして作っていますが、普通の原子力発電所で核分裂しても出てくるのですね。テクネチウムの医療用に使っているのはテクネチウム99mで半減期が短いのですが、テクネチウム99というのは半減期が長いのです。こういったものも取り出して、別のものに変えてあげたり、他に、ルテニウム、ロジウム、パラジウムも出てくるので、この3つは触媒にも使えますし、もともと貴金属なので高級な物質ですし、何かに使えないかなと研究したり、原子番号57から71までのランタノイドは非常にアクチノイドと科学的性質が似ていて、ランタノイドも核分裂の生成物として出てくるので、これらを相互に分けるといった研究もしています。

NTIC:すごく多岐にわたっていますね。

鈴木:多岐にわたっているようですが、基本的には元素を分けているだけですから。ただ、私はもともと原子力の人間ですので、最初にどういうものを分けるかは原子力の核燃料サイクルでどういったメリットとあるか等を考えて分ける対象にしています。

NTIC:分けてから考えるのではなく、分ける前にこれをこうしたらこんなものに使えると考えているのですね。

鈴木:原子力の観点からすると、こういうのを分けておいた方が色々と悪いことが起きない可能性があるから分ける、ということが多いです。ただ、実際問題として放射性物質から分けるので、本当に綺麗に分けないと中に放射性物質が混じってきたり、物によって分けてもそのものが放射性物質だったりするので、そういうものは使えません。ただ、放射性物質として使うことができれば価値があるのかもしれませんので、様々な含まれているものをどうやって分けてどう使えばいいかということは考えていますが、それを利用してということは、自分はそこまでの研究はやっていないです。

NTIC:先生の研究は、本当に素晴らしいものにつながる可能性がありますね。日本の中に先生のような原子力の研究をされている方はどのくらいらっしゃいますか?

鈴木:原子力を研究している方はたくさんいますが、原子力の中で分ける研究をしている人間は多くはないですね。だんだん減ってきちいるというのが現状です。

NTIC:減ってきているということは、今、この内容をされている先生方一人一人の研究がとても大事になってきますね。同じ原子力でも研究内容はいろいろとあるののですね。とても勉強になりました。

 今日は、お忙しい中、インタビューをありがとうございました。