機械創造工学専攻 教授
井原 郁夫

 
インタビュー日:平成23年1月24日

 

 

超音波センサーについて

NTIC:この度は、ビジネスアリーナへの出展ありがとうございます。当日は宜しくお願いいたします。

井原:いいえ、こちらこそお願いいたします。

NTIC:今回、現物もだされますか?

井原:超音波センサー(図1)だけ出展します。本当は、センサーよりも信号の方を見て欲しいのですけれど。

NTIC:そうですね。でも、実物を観る機会があるというのは、意味があると思います。それでは、センサーの話から聞かせてください。「センシング」というのは、計測器?計測の方法みたいなものと考えてもよろしいですか?

井原:そうですね。私はこれまで、あまり「センシング」という言葉は使っていなかったのです。この言葉は、「センス」=「触る、感じる、検出する」という言葉からきており、その行為またはそれを積極的に活用することを意味していると思います。海外ではよく使われていることと、言葉自体に幅の広い意味を含んでいるものですので、便利ではあります。余談ですが、計測というより「センシング」といったほうが、少し格好いいですよね。(笑)受けがいいのですね。そんなことで、最近では「センシング」という表現を使っていますね。まあ、平たく言えば「超音波センシング」≒「超音波計測」と理解していただければよいかと思います。

NTIC:ものに超音波をあてて、その状態を調べるのですか?

井原:そうです。病院の超音波エコーと同じです。経験されたことはありますよね?

NTIC:はい、あります。

井原:あれは超音波センサーを使うわけです。超音波センサーを使った計測とはどんなものか?といったら、これもよく使われる比喩ですが、「山びこ」なんです。山びこというのは、山に向かって自分の声を出すと、空気中に振動が伝わって、山に反射して帰ってくるわけです。行って帰ってくる時間を測ってやれば、そこに山があるということだけでなく、山までの距離が大体わかるわけです。同じことを、身体の中とか、物体の中でやるわけです。声を出す代わりに、物体に何か振動するものをくっつけて振動を与えます。物体を叩いてもいいのです。そうするとその振動が物体の中を伝わって、何かに当たると反射して帰ってくる。それを測るわけです。で、身体に対しても同じことができます。ちなみに、身体の中って、ほとんど水なので音が伝わりやすい、つまり、測りやすいのですね。

NTIC:はい。

井原:注目されたのは、タイタニックの事故のあとです。それまでは、目で氷山を監視していたのです。でも人間の注意力には限界がありますので、不幸にしてああいう事故が起きたのですね。そのとき以来、音を使った計測、つまり超音波計測が使われるようになりました。

NTIC:はい。

井原:水の中では音が伝わりやすいので、水中で放った音は長い距離を伝わっていき、何かに当たると反射するのです。この反射した音を使って水中の物体を見つける装置のことを、ソナーといいます。もし氷山があればその存在がわかるし、潜水艦があればそれもわかる。魚がいれば魚もわかる、つまり魚群探知機です。あれと同じことを、身体の中でやっているのが、超音波エコーです。水の中で測るとか、水に近いものを測るというのは、ものすごくうまくいくのです。実際、赤ちゃんは、かなり正確に見えるでしょう?

NTIC:そうですね。

井原:空気超音波センサーも同じ原理で使われます。実はこのセンサーってよく使われています。例えば、車のソナー(図2)をご存じですか?ちょっといい車だとバンパーのところに、ついています。

NTIC:はい、あれは空気超音波センサーなのですね?

井原:あれは、山びこみたいに、音を出して反射してくるのを観ているのですよ。

NTIC:はい。

井原:反射するということは、障害物がそこにあるということですね。反射という現象をもう少し詳しく説明すると、音のエネルギーが跳ね返って帰ってくるということなんです。逆にいうと、障害物の中には入っていかない。だから、音を使って空気中の障害物を見つけるのは、とても理にかなっているわけです。

NTIC:はい。

非接触計測について

 

井原:ところで、病院での超音波エコーの時は、ゼリーみたいのを塗りますよね。

NTIC:はい。

井原:あれは、センサーから放たれた超音波を身体の中に伝えやすくするために塗っているのです。でも、あのようなモノを塗られるのは嫌なものですよね(まれに気持がいいという方もいらっしゃいますが)。本当は、ゼリー状のモノを塗らずに、できれば身体に触れずにやりたい。

NTIC:はい。触らずに測る、つまり非接触の計測ですね。

井原:そうです、非接触計測です。この場合、センサーから放たれた超音波は空気を介して測定対象物を測るわけですが、その際、二つの問題があります。
  一つは、超音波は、空気中では伝わりにくいということです。少し話が脱線しますが、超音波とは「耳に聞こえない音」と定義されていますから、概ね20000ヘルツ以上の振動数の音です。振動数が高い=まっすぐに進むから、広がらないで=指向性が出るのです。この指向性が良いということが超音波計測の利点ですが、逆に、振動数が高くなると、空気の中を伝搬しにくくなるのです。音のエネルギーがはやく失われていくわけです。ですので、あまり長い距離を伝わることが出来なくなります。
  もう一つの問題は、そうやって、かろうじて空気中で伝わったとしても、固体に入っていかないのですね。固体の表面で、ほとんどが反射してしまうのです。したがって、測定対象物の中を観たいというときには、超音波が中に入っていかないのでは困ります。これが厄介な問題です。

NTIC:なるほど。「非接触」ということは、触らないということですか?

井原:そうですね。触りません。原理的には、非接触の超音波計測って、わりと簡単なのですが、今言ったように、現実には、エネルギーが入っていかないので問題なのです。この問題を何とか出来れば、便利ですから、かなり応用が広がります。
 水とか、ゼリーとか塗りたくない部分って意外とたくさんあります。人間の体は濡れても拭けば済みますが、工業的に使いたいときには、どうしても濡らしたくないことも多いわけです。

NTIC:はい、現場ではそうなのかもですね。

井原:ですので、非接触というのは価値があるし、原理的には簡単なのですが、その実用化にはちょっとハードルが高い。空気超音波センサーの開発のキーポイントは、このハードルをいかに克服するかということです。今回のこの空気超音波センサーは、問題克服への一つの方策を具現化したものです。

NTIC:はい、では、どのような工夫をされたのですか?

井原:大きな音を効率よく伝える工夫をしました。これはとても単純なことで、小さな音より大きな音のほうが効果的に伝わるということです。小さなひそひそ話だと聞こえないけれど、大きな声だと聞こえますよね。また、ステレオを使うと質を落とさずに音を大きくできます。それと同じことです。

NTIC:大きくすると?

井原:はい、いかに効率よくというか、効果的に振動を伝えればいいかという話です。色々な方法があると思いますが、一つの方法は、大きなエネルギーを与えてやればいいのです。つまり強く叩く、単純にそれだけです。

NTIC:それでは、大きくするにあたっての工夫などは?

井原:工夫したことは勿論あります。スピーカーのボリュームを上げると、音が大きくなりますが、雑音も大きくなりますよね。雑音はやっぱり、欲しくないのです。ボリュームを上げるという操作で、自分の好きな音だけを大きくしたい、つまり「SN比」を上げたいのです。SNってわかりますか?

NTIC:すみません。ご説明下さい。

井原:「S」って、シグナルです。「N」はノイズ。英語で言うとSignal-to-Noise ratio。信号とノイズの比です。もちろん、それは、大きいほうがいいのです。信号は大きいほうがいいし、ノイズは、小さいほうがいい。

NTIC:なるほど。

井原:で、どうするかというと、そのセンサーで工夫したことは、波の「干渉」(図3)を使ったのです。

 

超音波について

井原:超音波というのは、いくつかの振動の種類があるのです。例えば、縦波、横波、表面波、板波などの種類があります。ちなみに、今、私たちが話している話声は、縦波です。 
 これまで空気超音波センサーは主に縦波だけを使っていました。今回、私たちは縦波と横波を被測定対象の中にうまく発生させて、両者をうまく干渉させて、それで、波を強くする。そういう工夫をしました。

NTIC:はい。

井原:これ、小さく書いていますけれども、黒でかいてあるのが、もともとの何もしない場合で、干渉させると赤のように大きくなる(図4)、そういうことです。

NTIC:なるほど。干渉を使って、超音波の波を大きくすると同時にSN比を高めることで、センシング能力を高めたわけですね。

井原:はい、そういうことです。

NTIC:先生の新聞記事(図5)をみると、金属内部の異物と書かれているのですが、それは、もともとの金属の中にまで到達して、そのはねかえりをみる、と、そう考えればいいですか?

井原:はい、そう考えていただいて結構です。本当は、一個のセンサーを使って山びこのように反射で見ればいいのですけれど、さすがに、反射では金属内部を見られなかったのです。私たちが現在取り組んでいる溶接部材の評価の場合ですと、ナゲットと呼ばれる溶融部の大きさや内部の欠陥などを観たかったのですが、一個のセンサーによる反射では上手くいかなかったのです。そこで、センサーを二個使って透過で観たところ、その方が効果的でした。

NTIC:発信側と受け側があるということですね?

井原:そうです。

NTIC:大きさ的には、先生はどのくらいのものを想定されていらっしゃるんですか?

井原:ターゲットの話ですか?これは、私が想定するよりも、ユーザーが想定してくれればいいのでしょうけど、私が聞いた話では、スポット溶接の場合だと、10分の何ミリくらいです。ただ、この10分の何ミリというのは、あまり根拠のない数値です。本当は、より小さなものが見えたら、それにこしたことがないわけです。ただ、私とユーザーが双方の立場から当面の目標として想定した値が、500ミクロンです。0.5ミリいうことですね。

NTIC:センサーそのものの大きさは、どのくらいのものなのですか?

井原:このくらい(10~20ミリ)です。これより小さなものも出来ますし、大きなものもそれなりの効果がありますが、現実には、作りやすさと使いやすさのバランスから考えて、このくらいが妥当かなという感じです。

NTIC:なるほど。

井原:ただ、我々だけではこれを試作するのは少し難しい。これが大学の弱みです。アイディアを出して、設計をしても、作るのは我々じゃなくて、会社です。例えば、何か特別な材料を入手したりとか、圧電体というものを実際に張り付けたり、導電線を結合させたり、などは会社に委ねざるを得ないのですね。そうすると、たいていの場合は、そこの規格、つまり会社の経験やノウハウのようなところで決まってしまいますよね。

NTIC:はい。その話が出たので、私の方からお聞きしたいのは、すでに共同でといいますか、一緒にやりとりされている会社さんは、あるのですか?

井原:これについては、今はないですね。今回のセンサーは、会社の手は借りましたが、会社と共同で作ったわけではないのです。

NTIC:はい

井原:正確にいいますと、素材の入手や組み立てなどの点で我々だけでは短期間では試作は出来ないので、彼らに協力してもらいました。もちろん、こちらから相当額の対価を支払っています。今回の試作品は既に特許出願を終えていますが、大学と会社の双方で加工を分担したため、両者の間を何度か試作品がいったりきたりする過程で、秘密的なものが漏洩しても困るので、そこの守秘義務の契約を結んだ上で、加工を依頼しました。

NTIC:その会社とやりとりをした範囲で、実用化に向けて、とくに提携をしてということは、今のところはないということですね。

井原:今のところはないです。というのは、現段階では彼らは試作品の実態を知らないですから。

NTIC:何をやっているかは基本的にはわかっていなくて、お手伝いをしていると?

井原:うーん、少なくともアウトプット、つまり完成品の性能は見せていません。もともとはその会社とは付き合いがありましたが、これに関しては、結果どうなったかというのは、まだ見せていないのです。

NTIC:なるほど。展示会に説明を聞きにこられた方が、この研究に対して、実用化するために、一緒に出来ないかという話が持ち込まれたら、すでにやっているところがあるので、と答えていいのかどうかと。

井原:それは、そうではないですね。

NTIC:興味を持っていただく分には、事後連絡でお話をしてもかまわないということでね?

井原:はい、構いません。

NTIC:今のところは、さっき、溶接うんぬんというターゲットについておっしゃいましたけれども、それ以外のことで考えていらっしゃることもあるのですか?企業側サイドから情報を得た方が好ましいですか?

井原:そうですね。

 

超音波計測の利点

NTIC:なるほど。空気超音波センサーに関して集中的にお聞きしました、これからは、ざっくりと、先生のもともとの基礎的な研究に関して、お話をお願いします。先生は、何を得意にしていらっしゃるのか、お聞きしてもいいですか?

井原:分野でいうと、非破壊計測・評価・モニタリングです。材料や構造物の評価、診断。特に、測り難いモノや小さなモノの計測や評価にチャレンジしています。材料や構造物の強度や機能に関連した情報を定量的に調べるのが最近の仕事です。
 破壊をせずに、非破壊でいろんな状況を確認する、そのために、いくつか手段を使っています。最近は主に超音波を使っています。もちろん、X線やレーザーも使います。
  私の研究の特徴をあげれば、どちらかと言えば基礎研究というよりは産学連携とか、共同研究とか、そういう、実用化を目指した研究がメインです。大学の研究のスタンスとして妥当かどうかは議論のあるところですが、結果的にはそうなっています。そういうことからすると、超音波って都合がいいのです。何故かというと、レーザーとかX線とかは機能的にはとてもいいのですけれど、現場ではあまり使いたくない。危険ですから。安全じゃないのです。私はレーザー超音波という新しい手法の応用研究もやっています。この技術は非接触で超音波計測ができるので、ものつくり現場への適用が期待されています。しかし、ある大手企業の方から言わせると、レーザーなんて論外だというのです。危険だからです。レーザー超音波法ではクラス4と呼ばれる結構強力なレーザーを使います。このレーザーって、とても危険なのです。どのくらい危険かというと、反射光が目に入ったら失明する可能性もあるものなのです。そんなものは、現場では使いたくないのです。X線も同じです。X線を用いればある程度、中は見えるのですけれど、それも、出来ることならば使いたくない。そういう意味では、超音波は人間に優しく安全なのです。その点が他の計測手段とはちょっと違うのかなと思います。アプリケーションを考えるとき、安全は大事です。操作が簡単で安価ということもあって、最近は、専ら超音波を使っています。

 

産学連携にあたって

NTIC:企業さんがこういった問題に対して困っているので、ちょっと解決をしたいというケースが、これまでも、ありますか?

井原:それは、日常的です。

NTIC:ということは、企業さんが、こんなことで困っているのですけれど、先生、解決のため、ちょっと手を貸していただけませんか?という持ち込み方は、先生にとってイレギュラーではないということですか?

井原:もう全然イレギュラーではないですね。ただ、イレギュラーではないですけれど、野球でも、一人の野手が一度にキャッチできるボールは一個か二個ですよね。調子にのってボールをどんどん投げられても取れない。つまりキャッチボールができないということになりますから、そのへんの問題はありますね。

NTIC:交通整理ができてさえいれば、もちこまれることには問題はないと?

井原:はい、そうです。

NTIC:それは当然私達も心がけていますので、何でもかんでもとは思ってはいませんので、先生にとって、一番タイムリーなのは何かということを想定しながら、ご相談させていただきます。

井原:はい。
 大学の研究者の知識や経験と企業のニーズのマッチングは本当に大切だと思います。特に、社会貢献という観点からは、我々にとってちょっとしたことでも、意外に、企業の方々には役立つこともあります。
  一例をあげると、何年か前に、ある会社から相談を受けたことがありました。超音波のことはあまり知らない人でしたが、パルスエコー法という山びこみたいな方法で異物を検出したい、それだけの話だったのです。聞いてみたら、とても簡単な話でした。そこで、「それ、ここにセンサーをおけばいいだけの話ですよね」って。そんな相談にのってあげたことがありました。私はアドバイザーというような立場ではありましたが、結果的には最初の助言以外にはほとんど何もしなかったのです。数ヵ月後、その会社の方に状況を尋ねたところ、当初の予定通りに上手くいったとのことでした。その結果自体は喜ばしいことでしたが、私にとっては研究上のメリットは何もありませんでしたが(笑)。
  逆の例もあります。企業との共同研究をやっている過程で、とても興味深い結果や発見がありました。それらを重ねるとよい論文が書けるだけでなく実用にも繋がりそうなので、それなりの研究計画を企画したのですが、企業サイドのニーズに合わないということで受け入れられませんでした。問題は、このニーズに合うかどうかの境界、つまり判断基準がとても難しいのです。なぜかと言うと、それはタイミング(昨年はNGだったことが今年はOK)や担当者(A氏はOKでもB氏の判断はNG)にも強く依存するからです。シーズとニーズのマッチングはセレンディピティ的な面があるかもしれません。

NTIC:はい。

井原:しかし、ただ待っているだけでは良いマッチングは生まれません。NTICには、大学のもつ潜在的なシーズを上手い形で生かせるような産官学のマッチングの工夫を提供していただくよう、大いに期待しています。

NTIC:なるほど。本当にそうですよね。そのマッチングのお手伝いを、出来るだけさせていただきたいと思っています。

井原:蛇足ですが、この原稿を作成中、日本非破壊検査協会主催のシンポジウムにおいて、今回の空気超音波センサーの研究に関して、井原研究室修士2年の監崎孔明君が「新進賞」を受賞しました。

NTIC:それは、おめでとうございます。今日は、インタビューの時間をいただき、ありがとうございました。今後とも、よろしくお願いいたします。