情報・経営システム専攻 准教授

綿引宣道

インタビュー日:平成 22年9月20日

 

 

産学連携の問題点

NTIC:先生の研究内容についてお聞かせいただけますか?

綿引:私の研究は、元々は企業や大学の中の創造性ってどこから 出てくるの?というのを知りたかったのが発端です。ところ が、前に勤務していた大学には10年位いたのですけれども、 何もないんですよ。一番大きな事業所が県庁でその次が大学 か銀行かという感じで。

NTIC:何もないとおっしゃっているのは企業とかそういうもの がないということですか?

綿引:はい。あったとしても工場の現場しかなくて、仕方なく始めたのが産学連携なんです(笑)。
大学院生の時にベンチャー企業を経営していたことがあり、産業を創りだすことにも興味 がありました。就職して2年ぐらいしてから独法化に伴う大学合併の話が一時期ありまし て、大体どこの組織でもそうなんですが合併すると優位に立ちたがるものなんです。それ で、有利な点はないのか?産学連携でどうなのかを調べたら、合併候補の大学が抜きん出 ていて、私が勤務していた大学は下位レベルだったんですよ。

NTIC:理由はなんだったんでしょうか。

綿引:分野的な問題で学部構成が理学を中心ということもあるのですが、諦めに似た雰囲気が ありました。それで大学全体を盛り上げる方法としてリエゾンを使えないかと考えたんで す。それで、調査で岩手大学に随分お世話になりました。岩手大学ではリエゾン経由で共 同研究になることはあまりないんですよ。ご存知かもしれませんが、INS(岩手ネット ワークシステム)という任意団体、長岡で言うとNAZEよりも少し大学寄りの団体が頑 張っているんです・・・。いや、頑張っていないんですよ。楽しんでいるんです。
  その居心地の良さからどんどん企業が集まってきて、200人くらいが集まれるところで、 大学の教員、講演に来た経産省や文科省のキャリアの役人、市役所、工業試験場の職員 に作業服にペンキべたべたのおじさん達までが集まって隣同士に座って飲んでいるんで す。その場所で、「これで困っているんだけど、何とかならないか?」「その申請書はこ う書くと良いよ」とか、「それならあの大学の先生が得意だよ。」という具合にどんどん 進んでいくんですね。
 逆に「産学連携産学連携!!頑張れ頑張れ!!」って言っているところほど、件数が少 ないんです。
  実は、技大にも昔インタビューに来ているんですが、その当時はまだNTICがなく財 団がやっていた頃です。その当時の財団も「頑張れ!」みたいな雰囲気があったんですけ れども、実際には先生が勝手に営業して勝手に客(企業との連携)を取ってくるという感じ だったようです。
  全国九州から北海道まで色んなところを見て、結果として分かったのは皆さんの前で言 うのも失礼なんですが、リエゾンオフィスって無駄なんじゃないの?ってだんだん思い始 めたんです。

NTIC:先生がおっしゃっているのは本学のことだけのことを言っているのではなく、全国 レベルで基本的には必要ないんじゃないかなと感じていらっしゃっているんですね。

綿引:そうです。優秀であればあるほど先生は色んなところで学会や講演に行ったりしてい ますのでそこから、興味のある企業さんは後からついてきます。件数の少ない大学ほど尻 を叩いて共同研究件数を増やそうとするので、先生は却って嫌気がさして逃げちゃうん ですよ。そういう事例を見るとリエゾン・オフィスは別な方面で存在意義を見つけたほう がもっと効果的なんじゃないのと思っているのが正直なところです。これが1998年 から2006年くらいまでの研究です。

長岡における産業クラスター

綿引:長岡に移ってきてからようやく創造的組織の研究をしようかと考えていたときに、近所の企業を見にいったら結構面白い点がある、と気付きました。ここから第2段階に入っていくんですが・・・。

  合併前の長岡は人口18万人でした。前に居たところも18万人くらいなんですが、両方とも城下町なんです。城下町で比較すると、長岡ほど産業クラスターが発達しているところは他にないんです。それは何故かと、長岡から石油が出たとかそこから鉄工業が派生するというのもあるんですが、明治2年からランプ会というINSのような異業 種交流会が原因というのが分かったんです。
  長岡は戊辰戦争で丸焼けになった後、米百俵で国漢学校を作るのですが、そこの先生に「従業員のストライキ(今でいうところの)が起きたんですが、どうすればいいですか?」という商人達から相談があったところからランプ会が始まっていると言われています。その後、国漢学校は小学校に変わり、中等・高等教育をしたかった先生の努力に対して、新潟県庁(当時は明治政府の派遣)から学校として認めるかどうかでずっともめることになります。このごたごたが実は反明治政府として長岡の士族と商人の団結力を高め、そこから様々な商売の話につなげていったと思います。普通士族が商売に手を出すと大体失敗しますが、彼らは商人との協力体制を組んで成功させちゃうんですね。学校の先生をやりながら取締役をやっている人たちが結構多い。しかも1社だけではなく複数企業に出資したり、取締役をやったりしている。 これをグラフ理論でやってみると、どうも新潟や直江津等と比べてみても長岡は特殊な形をしているんですよ。左図のように、長岡は様々なところとつながっています。社会学の中で言うところのスモールワールドに近いんですよ。世界のどんな人とつながるためには6人の人に紹介してもらえばたどり着けるという話を聞いたことがありますか?まさに理想的な形が当時の長岡にあるんですよ。こういう社会構造を作れば他の地域でも産業クラスターがうまくいくかもしれない。では、どこが境目になるんだろうかと。明治の初めの頃は長岡も栃尾もほぼ同じ経済力でした。栃尾は、明治政府に攻撃されていないし東山油田も近いのにもかかわらず、まとまってしまったじゃないですか。その理由を探ってみても面白いんですよ。長岡は片っ端から手を出すんですよ。無節操なぐらい。大量の士族階級の失業者が出たので必死だったと思います。栃尾の場合は綿花・養蚕で生活できたのでよそに行かなくても済む、別な産業に手を出す必要もなかった。従来の枠組みで特に変えていく必要がなかったので、ある意味強い紐帯の固い組織をコミュニティの中に作り上げて行ったのです。
 そこを見ていくと今の日本と似ているものを感じます。技術にしても産業を発展させるにしてもそれを歴史から学ぶことが出来るのではないか。というのを学生達に今、研究させている最中です。長岡は国に依存しなくても産業クラスターを形成した、実に興味深い事例だと思います。
   

アンケートによる雰囲気見極め

綿引:もう一つやっている研究は、伸びていく組織とそうでない組織を雰囲気で見極める方 法はないかと。それをそのままでは顰蹙を買ってしまうので、安全管理の雰囲気と言うこ とにしています(笑)。例えば、新人がミスをした時に先輩はどうやって止めに入るの? という社会学的な観点について安全工学は扱いきれてないのですよ。
  安全工学は知識を身につけさせれば絶対問題は起こらないという前提に立ちます。で も、ベテランでもうっかりミスはやりますよね。それを仲間が止める雰囲気をどうやっ て作れば良いのかというのが今の研究テーマです。

NTIC:その雰囲気を研究の素材として感じ取る方法はどういう風に考えていらっしゃるん ですか。

綿引:まず、従業員さんにアンケートを配ります。通常のアンケートですと上司からチェック されるんじゃないのと思われてしまうので感性工学でよく使われるSD法でやります。 一見すると全く意味不明なアンケートです。従来の心理学でやっている心理測定尺度の5段階法と企業の中の独特の上司と部下との関係等について尺度を作って、職場の雰囲気はどっち?というのを選んでもらいます。そこから因子分析をやって、その後共分散構造分析をやって、これがこの雰囲気を作り出していると特定していきます。例えばマイペースで問題のある雰囲気になっていたらどうすれば団結心を高められるのか、飲み会をやったほうが良いのか、スポーツ大会をやったほうが良いのか、それともガツンと怒鳴ったほうが良いのかそういうのを探し出すということをやっています。

NTIC:つまり単刀直入にダイレクトに聞き出すのではなく、心理学的な手法で色んなアン ケートをするわけですね。例えば病院の精神科の先生がチャートでやるようなイメージ でよろしいですか?

綿引:あれとは少し違いますが、あんなイメージです。アンケートからその答えになるよう なことを導き出すのではなく、どういう心理でそういう行動に向かっていくか分析する ための手法です。現象学的社会学で言うところの「生活世界」つまりその組織の中では 「当たり前のこと」「当たり前のことになるプロセス」を明らかにして制御していきた いと思います。例えば、お宅の企業の雰囲気はどうですか?とアンケートをとらせても らって「潜在的にこういうことがおきているかもしれませんよ。今現在のモチベーショ ンをもう少し高く持っていくためにはこういうことが効果的かもしれませんよ。」と持 っていければいいなあと思います。

NTIC:この近くで紹介しようとしたら商工会議所等を経由してある程度の規模の会社で、 そういうことに対しての調査の気持ちはないですか?と持っていけば先生達の研究にも 役立つケースが沢山ありますね。ちなみに、地元の企業でそんな形で依頼を受けて解析 をしたりというケースは何件かあるんですか?

綿引:病院が2件、学校が1件、公的組織2件、砂利会社が2件と、工作機械1件の8件で すね。統計上30人以上ないと難しいんですよ。

NTIC:例えばちょっとした講習みたいな形でそういう心理的なものに対して講習会をしま すよというケースで登場してもらうことは充分可能なんですね。

綿引:可能だと思います。ただ、まだ始まったばかりなので、問題の所在をどこに絞るべき かの段階です。できれば300社くらいのデータが取れれば、それなりのアドバイスは 出来ると思いますけれど。

NTIC:ということは、逆に先生にしてみるとその結果をどういう風にフィードバックでき るかは別として、企業との接点を持つことはとっても意味のあることなんですね。

綿引:とても意味がありますし、協力をお願いしたい点でもあります。 

NTIC:逆にそういうことに対して積極的に最終的な結果が分かるには多少時間がかかるか もしれないけれども、協力してくれる企業が研究素材として必要なんですね。

綿引:はい。今のところ出身大学OB会経由で紹介してもらっていますが、数には限界があ るのと中小零細企業が多いので出来れば統計学上の問題から30人以上の企業の協力が 欲しいと思っています。

NTIC:対象は、工業系でも商業系でも病院でも関係ないんですね。

綿引:全く関係ないです。当然、それぞれの産業や組織の目的ごとに必要とされる雰囲気に 違いが出るでしょう。ですが、ストレス管理など共通する部分もあるはずです。
  30人以上200人くらいの規模のところで実施できればどんな産業でも、どんな組 織でもOKです。究極的には企業にフィードバックが出来て、この形が出来た時にはこ うすれば効果があるかもしれませんよとアドバイスできるように心がけています。