システム安全専攻 准教授
大塚 雄市

インタビュー日:平成22年7月6日

 

 

システム安全のアプローチ

NTIC:システム安全というと、あまり耳なれないですが、それでも、とても興味があるので、お話を聞かせていただけたら。

大塚:システム安全に対する考え方・アプローチの仕方ということで、話させていただきます。
 まず、1.本質安全設計、2.安全確認システム、3.危険検出型、もう一つ、全く新しい考え方が1つ。それぞれ、例を挙げてご説明できたらと思います。本質安全設計」ということで、シュレッダーの話を。シュレッダーに子供の指が挟まる事故(図1)が過去多数ありましたが、あれは、危険のリスクを予測できなかったからです。予測できていたとしても、それに対しての安全対策がとられなかったのです。シュレッダーを売るのが、会社だけでなく、家庭でもといったことを考えたとき、もしかしたら、子供が指を突っ込むことも考える必要がありました。そうしたら、紙は出てくるのだけども、子供が指を入れることが出来ない構造にするという対策は、始めから出来た筈です。墓場安全という安全対策ばかりしてきたので、事故が起こってからの対策となってしまった。

NTIC:本質安全設計というのは、構造そのものへの対策をということだと思いますが、他には、どんな対策が出来るのですか?

大塚:安全確認型システムという考え方があります。

NTIC:では、まず、危険検出型という考え方のご説明をお願いいたします。

大塚:例えば、車のブレーキランプ(図2)。赤いのは、あれは危険検出型そのものです。ブレーキを踏んだら、ブレーキランプが赤く光る。「止まれ」というのが、後ろの人に伝わるわけですね。危険だという信号を後の人に伝える。ですけれど、濃霧だったら、どうなるでしょう?

NTIC:見えませんね。

大塚:危険だとい信号が通じなければ、結局、追突してしまうというリスクが出てきますよね。

NTIC:そうですね。

大塚:危険検出型信号の一番の問題はそこで、危険だという信号がユーザーに伝わらなかったら、そのまま使って、怪我をしてしまう。信号を伝えるには、必ず、何らかの方法がいりますよね。そういったセンサーが壊れていたら、どうなるのでしょう?

NTIC:怪我をしますね。

大塚:製造装置でも、そういうのがあったら、やっぱりまずいのですよね。

NTIC:はい、では、安全確認型というのは?

大塚:昔は、洗濯機がぐるぐる回っていても、蓋が開きました、最近の洗濯機は、ぐるぐる回っているときは蓋がロックされます。どうしてロックされているかというと、安全確認型の考え方そのものを導入しているからですね。洗濯機が回っている状態というのは、人が指を入れた場合、指が巻き込まれるリスクを持っている状態ですね。それは、危険な状態ということです。専門用語でいいますと、ハザードというのですけれども、人にリスクをもたらすもの。で、そういうものがある状態は安全ではないので、そういうときには、人がそこに触れられるようにしたらいけないのです。なので、ロックをかえる。ロックがいつ開くかというと、止まったときです。何故開くかというと、危険ではなくなったからではないのです。止まっている状態は、ユーザーに対して安全であるという状態を認識して、ユーザーに触れさせても大丈夫だよというのを、機械が確認しているから、ロックを外せるのですね。警報とかなくても、怪我はしないのです。(図3)

NTIC:もうひとつの考え方というのは?

大塚:昨年、1つびっくりすることがありました。羽がない扇風機(図4)が出てきたことです。

NTIC:ああ、ありましたね。観たことあります。

大塚:はい、ダイソンから出ているのですが、あれは、衝撃的でした。扇風機のリスクとして、ぐるぐるとまわっていますから、そこに指を入れたら切断されますよね。ですから、今までの安全対策は、扇風機も材質の部分の角を丸くしようだとか、網の目を細かくしようだとか、今あるものを、ちょっと改善するといったものでした。それが、日本人のアプローチなんですね。それを、ダイソンは、扇風機の羽をなくせばいいじゃないかと考えたのですね。みんなは、そんなものを買うわけないだろうと思っていたんですよ。そしたら買うのです。

NTIC:はい、どうしてなのでしょうか?

大塚:普通で考えると、扇風機が数万円(高額)で売れるなんて考えられないですよね?でもありました。リスクをなくすような設計をしつつ、機能を発揮して、それに価値を付けたのですね。付加価値を見出したのです。日本人の、あるものをどうにかしてではなく、全く新しい思いつきでその価値を見出したのですね。驚きましたし、そういうアプローチの仕方もあるのだなと発見しました。

モノが安全であるためにー寿命判断ー生体金属材料

NTIC:先生の研究されている「寿命判断」ということについて、お話いただけますか?

大塚:機械の側でも機械設計の側でも、モノを扱うのに、ある程度の負荷がかかったときに、壊れる、壊れないか判断するということは基本です。壊れたら変えればいいということだったと思うのですが、今ですと、やっぱりエコとか、いろいろな問題もありますから、1つのものを長く使うということになったわけです。で、そうすると、壊れるか壊れないかの判断も重要なのですが、いつ壊れるかという予測も非常に重要になってきます。で、そうしたときに、いつ壊れるかということを適切に予測するためには、予測する手法の研究をしています。

NTIC:寿命判断をするということの、ユーザーにとってのメリットは?

大塚:色々な使い方によって、寿命はばらついてきますが、壊れないように、壊れたときに、メンテナンスをやっていきます。そうしたときに、メリットがあると思います。予想を精密にしていくことで、無駄なメンテナンスをなくしたうえで、別なメンテナンスをしていけます。ユーザーが、トータルで払うコストを抑えることができます。

NTIC:そのいろんな形状での疲労の仕方とか、寿命とか、破壊の仕方をシミュレーションしていくということですね?

大塚:そうです。色々なところで使われている新しい材料に対して、この材料が、こういう形状で、こういう力をずっと加え続けたら、どうなっていくかを、いろんなパターンで探っています。

NTIC:それでは、今現在されている内容を、具体的に簡単にお話しいただけますか?

大塚:寿命判断という研究テーマで取り上げているのが、医療用の金属材料です。医療用の金属材料と聞くと、歯科のインプラント(図5)とか聞いたことがあるかと思います。例えば、金属製の関節を膝とか股関節に埋め込んだりします。その耐久性の評価というのは、ある程度はあるのですけれども、確立はされていません。人間の体内のなかで、どういう風な環境の変化で出るかというのが、まだよくわかっていないのです。寿命というのは、いろんな環境によって影響を受けるからです。それは、例えば鉄鋼。大気中でしたら1千万回使われても、もちます。が、海洋プラントではそんなことはないですよね。寿命が2桁3桁違ってきます。10万回くらいでしょうか。じゃ、体内ではどうかというと、そうしたときに人間の体内に入れるわけにはいかないので、それをどう模擬したらいいかということをやっています。

NTIC:それを模擬するということは、きっと大がかりになりますよね?

大塚:どうしても評価の方法として、実物を使って評価するということが多いので、そうすると大手の会社しか対応できないのですね。そういう実物を実験できる大きな装置がないと。しかも、それは試験しないと対応できないですよね。なので、設計する段階から、そういうデーターがあれば、ある程度使えるわけですので、こういう形状のものを、こういう風に使うときには、だいたいこういう寿命になりますよという設計データが出るようになれば、そういう風な製品開発にも、強力なサポートになるということが期待できます。特に、医療用の材料ということで、いろんな形状、若しくは、特に手術とか行いますので、トントン叩いたりするんですね。そういう風な加工の影響がどう出るかというのは、実はあまり評価されていないのです。あるデータとしては、臨床事例として壊れたという事例しかないと。じや、それが何で壊れたかというと、力学的に見ると、自然に壊れたと。で、その影響をどうやって評価するかという問題はあるので、その評価手法をいろいろと考えているところです。

NTIC:今、その評価手法を、構築しようとしているわけですね?

大塚:はい、特に今考えているのは、例えば、人工関節(図6)というのがありまして、人工関節を体内に入れると、その体内で、こう歩いているときに負荷を受けるわけですね。負荷を受けたときに、まず環境が変わったら、寿命がどう変わってきてという評価はできています。ただそうしたときに、それは使われている環境そのままではないのですね。例えば、人工関節自体は、骨に埋め込まれていますので、骨に埋め込まれていると、回りから負荷を受けたままなので、単純に塩水とかの人間の体液に近いものの中に、漬けているだけでいいのかという問題はあるわけですね。ですから、模擬の骨があるのですけれども、人工関節を模擬の骨にさして、実験をする方法もあります。それですと、結局、人工関節の形状が変わったら、使えないですよね。なので、テストピース=試験用の具剤を使って、そういうような骨に埋め込まれた状態を模擬して試験実験できればいいなというのは計画中です。まず、基本的には、腐食の影響を模擬すということと、まわりに埋め込まれているという影響を、どう模擬するかということを研究しています。

NTIC:それは、実証モデルを出来るだけ作ろうと思っているわけですね?コンピューター上で、ソフトを構築して、そのソフトの手法で、構造解析やるとか、FEMとか、うまくかみ合わせていくかとは違うのですか?

大塚:はい、それは組み合わせていることになると思います。テストピースとしてあるのは、強度のデータですね。このくらいの強度でやったときに、もつよという強度のデータをFEMで出すわけにはいかないと思っています。それは、こういう風な環境を使ったら、強度はこのくらいになるよというのはいえます。そのデータと、例えば製品の三次元の形状とかできれば、最大応力を出せます。この2つを組み合わせてやれば、こちらがやった実験をしなくとも、代替設計のデータとしては使えるのではないかなと思います。

NTIC:FEMにデータを投入するための、その材料が持っているデータを、どれだけたくさんのデータを持つかで、FEMの精度が決まってくると思うのですが、その元のデータをどのようにして、蓄積するかということと、どのようにしてFEMに送りこむかということをされているのですね?

大塚:最終的には、開発を加速するためには、実験をなるびく減らすことです。企業側ではそのデータをとることが難しい、こちら側では出来るので、強度側のデータをしっかりとること。それをしたいと思っています。

NTIC:こんな材料の特性をいろんな形で、実験したいという企業からの相談ケースも、過去にはたくさんあるのですか?

大塚:生体材料ではないですけれども、話はきてますね。企業でも、データが整備できないので、こういう材料のデータを知りたいですとか、材料を工夫した場合に、どういう効果があるのか診て欲しいだとか、寿命を延ばしたいのだけれど、それを検討してくるだとか、いろいろきています。

NTIC:地元の企業でもありますか?

大塚:地元の企業の方は、主にプロセス側ですね。例えば、生体材料を作るときに、まわりにコーティングを施すのですけれども、そのコーティングの方法を一緒に工夫しようだとか、そいうことで共同研究しているところはあります。

NTIC:こんな材料を工夫したいのだけどという、設計的なところから入ってこないと、共同研究にはならないですよね?

大塚:そこまでいかなくても、例えば、こういう質で、こういう設計をするときに、どういう強度評価をすればいいかが判らなくて困っている、というお話でも全くかまいません。新潟は、金属加工がとても盛んですから、そういうのを加工したときに、こんな製品分野に応用したいのだけれども、評価とか一緒にやってくれないかだとか、そういう話は、いつでもご協力出来ると思います。

NTIC:扱っているには、金属材料ですか?

大塚:今、扱っているのは、金属が多いですけれども、材料が違いますけれども、ポリマーとかでも対応できます。

NTIC:FRPとかCPPRとか、そういうのも対応しようと思えば対応しますか?

大塚:CFPRは材料としては厄介ですが、できないことはないと思います。

NTIC:前回、チタンの6アルミ4バチウムの材料の試験機をおつくりになっていましたけれども、あれは医療用ですか?

大塚:チタンの64材料は、生体金属適合材料の第一候補です。候補としては、チタン64と、材料開発してニオブとか入れたのもあるのですが、形状としては64の方が、いろいろな分野でも出ていますから、ベース材としては、64で十分だと思っています。

NTIC:はい、なるほど。

大塚:ですから、64というのは、チタン系素材としてとりあげています。あのデータがあれば、だいたい他にも使えると思います。


NTIC:では、順調にもうデータがとれ始められているのですね?


大塚:もう、それは学生さんが頑張ってとってくれています。ありがとうございます。(笑)

今後におけるシステム安全のアプローチ

NTIC:安全という部分で、一般消費者という考え方がクローズアップしてくるんですが、工場とか企業でも、その考え方は付きまとってきますよね?

大塚:はい、私たちとしては、どういう人が使うかによって、アプローチを変える必要がありますし、変えています。

NTIC:その安全ということと、その裏腹に、例えば生産性とかコストとか、そういったものが、工場とか企業では出てくるケースがありますよね?

大塚:私自身は、そのアプローチに対しては、どうやってコストとかを両立していくかが鍵だと思っています。どうしても、安全対策をプラスするということは、何かコストがかかるわけですよね。じゃ、そのコストはだれが受け入れるのだという話にどうしてもなってしまいます。アプローチとしては、
1.ユーザーの人が、付けた安全に対して、コストを持ってくれる=ダイソンの扇風機
2.企業の人にコストを持ってもらう→安全対策の効果を、どうやって、可視化するか、何か、安全を入れることによって、こういうリスクがあった筈なのを、減ったという、機会利益・安全性をきちんと評価してもらうことで、商品を売るところが増える

NTIC:例えば、ISOですか?

大塚:そうですね。ただ、気をつけなければならないのは、そうすると、日本の規格ではいけない部分がでてくるのですね。これが矛盾です。

NTIC:日本が不得意な部分ですね?

大塚:日本はあるルールの中で、ベストに向かっていくのは得意なんですよ。でも、ルールをひっくり返されたら、弱いのです。ノルデックスキーとかで、日本人はめちゃくちゃ強かったですよね。何故弱くなったかというと、そもそも使っているルールを変えて、使っている材質に対して日本が不利になるように制限を加えていったからですよね。じゃ、なんでそんなことになったかというと、そもそもルールを変えなければいいのですよね。日本人が努力して。

NTIC:はい。(笑)

大塚:国際規格とかでもそうで、自分で自分たちが使っている規則を世界標準のルールにしてしまえば、それ自身で、合理的に独占することが出来るわけですよね。ですから、安全をやることによって、どうやって、金になるようにしていくかということを、見えるようにしていくことが課題だと思います。
 合理的に日本だけが出来るようにすることです。合理的に独占することが出来るので。そうやって、安全性に価値をどうやって、付けていくかということは、設計者としてしっかり考えていかなければならない。それは、うちの大学でも、ルールということは、要だということで、国際とは何ぞやということを、必ず教えます。

NTIC:なるほど。それでは研究されてきた中で、完成された実物みたいなものはありますか?

大塚:設計レビューシステムですね。(図7)故障をした場合に、どうやって整理するかということを考えたときに、レビューをするシステム自体を考えました。その中で、こういうソフトを作ってみたのです。

NTIC:このソフトは、先生のところで、もう出来あがっていると思っていいですか?

大塚:これは、トヨタで開発された「故障解析の方法」があるのですけれど、共同研究でやっていました。そういうデータシートも作れますし、リスク評価シートも、同じようにして作れます。webサーバーにおけるので、関係者と議論しながら出来ます。実際、今問題になっているのはデータが消えてしまうことなので。紙ベースのものを管理するときに、システムが高額なので、そうだったら作ってしまえということで作りました。リスク評価をしたいという企業に使ってもらえると思います。リスク評価をやるということを導入する企業に対して、色々なサポートが出来ると思います。
1.こんな故障があるだとうと、故障解析として
2.トラブル予測として
ただ、まだ売るとかという話ではないので、是非、検討していきたいのです。